プロローグ
桂高校の校舎の屋上に、西村空江は居た。
空江はフェンスから身を乗り出して真下やグラウンドの様子を窺っていた。サッカー部、陸上部、ハンドボール部…皆、懸命に練習に打ち込んでおり、誰も屋上に居る彼女の事等、気にも留めていない。
それは、今から自分自身を殺そうとしている彼女にとってこれほど好都合な事はなかった。
どうせ、誰も私がこの世から居なくなった所で気にも留めないだろう。特に、父やテニス部の人達にとっては…
空江は大きく深呼吸をすると、フェンスの網目に足を掛けて上り始めた。
「さようなら、西村空江…」
そして―
数分後…
屋上から落ちた少女の遺体は、硬いアスファルトの地面に転がっていた。
頭から先に落ちたのだろう。顔はほとんど認識出来ない程に無残に潰れ、辺りに中身をぶちまけている。
しばらくすると、落下直後の得体の知れない音を聞きつけた、まだ学校に残っていた数人の教師や生徒達がやって来て少女の遺体を取り囲む。
無残な遺体を目の当たりにして、気分を悪くしている生徒や教員達を他所に、後から来た一人の男子生徒が少女の遺体の前に歩み出た。片手には小さなカメラが握られている。
その男子生徒は少女の遺体にピントを合わせると、ためらう事もなくシャッターを押した。
少女の頭から吹き出た鮮血。左手の甲についた【×】の真新しい傷跡。不自然にひしゃげた手足…それらが一切ぶれる事無く綺麗に撮れたので、思わずその男子生徒は二タリと笑みを浮かべた。