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赤の仮面  作者: 馬場悠光
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第二章 【昌子】

 図書室でそれぞれの話をノートにまとめていると、康時がやって来た。


「どう。話は聞けた?」


「ええ、以外にもすんなり」


 そう言って彼は、一冊のメモ帳を私に手渡した。


「僕が話を聞きに行った小野寺先輩と岬は事件があった時、一緒に居たみたいで、お互いのアリバイを大体証明しています」


「私が話を聞きに行った赤城と神尾先生は、先生の方は事件があった時のアリバイはあるけれど、赤城の方はアリバイが全くないわね」


「だったら、その赤城って奴が犯人なんじゃないんですか?容疑者の中で、唯一アリバイがないみたいですし」


「でも一応、一通り伊藤の証言を元に一人ずつ検討していった方がいいわ」


 私は自分のノートに目を通した。


「まずはテニス部部長の赤城努。彼は事件があった時刻、病気で家に居たらしいわ」


「病気?」


「ええ、体格的にかなり丈夫そうな感じだけど、意外にも、ものすごく病弱らしいのよ。でも、証人がいないから本当にその時病気だったのかは、分からないわね」


 しかし、伊藤の証言では、犯人はこの学校の制服を着ていたという。わざわざ人殺しをするのに学校の制服を着る必要などあったのだろうか?


「それで、顧問の神尾という先生は?」


「神尾先生は、自分のクラスに不登校の人が居るらしくて、その人の家へ行っていたらしいの」


「家庭訪問ですね。でも、その生徒の家があの公園の近くにあったのなら、行く途中や後でも犯行を行う事は十分可能なんじゃないですか」


「あっ…」


 たしかにそうだ。不登校の生徒の家へ行っていたのは本当かもしれないけれど、その生徒の家が仲山が殺されたあの公園の近くにあれば、犯行をやれなくもない…


「後でその生徒の家がどこにあるのか調べてみるわ。でも、すごいじゃない。あなたがこんな推理の出来る子だなんて思わなかった」


「いえ、別に…それより僕の仕入れた情報は…」


 私がそう褒めると照れ隠しなのか、彼は乱暴にメモ帳をめくった。


「小野寺先輩と岬は事件があった時刻、一緒に練習をしていたそうです」


「…それだけ?」


「いえ。何か変わった事があるかと岬に聞けば、練習の途中で小野寺先輩が五分ほどトイレに立ったそうです。その間に小野寺先輩か岬が公園まで行って犯行を行ったとも考えられますが、先輩も知っての通りこの学校からあの公園まで、仮に乗り物を使ったとしても五分で往復ができるような距離ではありません」


「確かにそうだけど、もしも二人が共犯だったらどうなの?本当は練習なんてしていなくて、二人であの公園に行っていたのかもしれない」


「確かに…」


 そう呟いて康時は親指の爪を噛み始めた。


「まぁ、この説はいつかしっかりと検討するとして、最後の人に移りましょう」


「伊藤英太ですね」


 私はあの男の顔を思い浮かべた。赤城が暴力的な人間であるのに対し、あの男は猟奇的な人間だ。数時間前、そのような男を相手に情報を得て、なおかつあの男の狂気の結晶である人間の遺体が写った写真も無傷で得る事が出来たのは、ある種の奇跡であろう。いずれにせよ、二度と近づかない方が良い男である事には間違いない。


「ブラブラ辺りを散策していたら、偶然事件に出くわしたって言ってましたが…あの男の言っていたことは全部嘘で、実は伊藤こそが真犯人という可能性がありますね」


「考えられるわね…」


 それが一番ありえるような気がする。写真に遺体を撮りたいから人を殺す。己の私利私欲の為に人を殺す。私は、アリバイのない赤城の犯人説よりも、そっちの方が考えやすいと思った。


 すると突然、康時が爪を噛むのを止め、何かを思い出した様に私に言った。


「そう言えば…皆の利き腕を調べました?先輩の話では、犯人は左利きだそうですけれど」


「あっ…」


 すっかり忘れていた。自分自身が言い出した重要な事なのに…不覚だ。


「ええと…伊藤と神尾先生は分からないけど、確か赤城は左利きだったような気がする…」


「小野寺先輩は右利きですね。僕が教室に行った時、右手にペンを持って何かを書いていましたから。岬はおそらく左利きです。僕が彼女に駆け寄った時、左手にラケットを持っていました」


「そうなれば、右利きの小野寺君は、犯人の利き腕と一致しないか…」


 これでより一層、アリバイがなく、左利きである赤城が犯人だ。という説が強まってしまった。


「それと先輩」


 康時は私に言った。


「二年前、中山さん達にいじめを受けて自殺をした女の子の事をご存知ですか?」


 一瞬、時間が止まったような気がした。どうしてその事を…


「小野寺先輩から聞いたんです。彼も、おそらく中山さんを殺した犯人の動機はおそらくそれだろうと」


 いつまでも黙ったままだとあやしまれてしまう。私はがんばって口を開いた。


「…西村空江さんね」


 私は当然、彼女の事を知っていた。


「一年生の時、同じクラスだったの。まぁそうは言っても、数えられるほどしか話しをした事がないんだけど」


 私は気がつかない内に、左手を右手で押さえていた。


「もしも犯人が西村空江と何か関わりがあるとすれば、彼女の家族とか、友達とか、恋人とか…もしかしたら、神尾先生と空江は兄妹だったりして。年齢的にもありえるかも…」


「偶然ですよ。ただの」


 私の考えは、康時によってきっぱりと切り捨てられた。


 その後も、私達は色々と議論を続けたが、これ以上、これといった推理や結論には至らなかった。


「今日はもう、これくらいにしませんか?」


「そうね…」


 こうして、今日の議論は終了した。


「あれ?今日は一緒に帰らないの?」


 私は急いで荷物をまとめて図書室から出て行こうとする康時を呼び止めた。


「すみません、今日はちょっと、家の用事があるので…」


「そう…残念」


 康時は鞄を持って、早足で去って行った。


 図書室には私以外に誰も居なくなった。窓の外を見ても、辺りはかなり暗くなってきている。


「私も帰ろう…」


 自分の荷物をまとめようと机の上を見た時、康時のメモ帳が私のノートのそばに残されていた。


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