第二章 【康時】
三年A組…
「ここで、間違いないよな?」
僕は先輩から渡された紙を頼りにこの教室にやってきた。紙によればここに、小野寺竜一という、中山美花と同じテニス部の生徒がいるそうだ。
「失礼します」
僕は開いている窓から、髪の毛が茶色の男子生徒に話しかけた。
「このクラスにテニス部に所属している、小野寺という人が居るっていうので来たんですが、いらっしゃいますかね」
「小野寺ぁ?お前、アイツに何か用なのか」
「ええ、すみませんがここに呼んでいただけませんか」
「いいよ。おい小野寺ぁ!お客さんだぞ」
その言葉に、教室の中央付近でノートに何かを書いていた生徒が頭を上げてこちらの方を見た。そしてペンを置くと席を立ち、ゆっくりと僕に歩み寄ってきた。体格は中肉中背で、特に何の特徴もない人である。
「やぁ、俺に何の用だい?」
初対面であるにもかかわらず、彼は僕に対して笑顔を浮かべてきた。人当たりの良い優しい性格なのだろう。そんな人にこれから仲間が殺された話しをするのは殺人事件の話しをするのは気がめいるが、昌子先輩のためなら仕方がない。
「小野寺先輩ですね?僕は一年の霜田康時と申します。中山美花さんの件で話をうかがいに来たのですが…」
「あの話か…」
小野寺先輩の笑顔が消えた。なんだかこっちの胸も痛くなってくる。
「あいつが殺されたあたりの時刻、俺がどこで何をしていたかを話せばいいんだろ」
「…ハイ」
「確かその時、一年生の後輩…岬るみ(みさき るみ)ってヤツなんだが、そいつと一緒に練習をしてたんだ。七月に大きな大会があるからな」
一応アリバイはあるみたいだ。だが、他にも聞かなければならない事は沢山ある。
「最近、中山さんについて、何か変わった事はありませんでしたか?ストーカーの被害を受けていたとか…」
「いや、そんな事はないと思うよ。仮に受けていたとしたら、俺か顧問の神尾先生辺りに相談してただろうし」
「それでは、誰かに恨まれていたとかは…」
ストーカーなどといった物でなければ、考えられるのはそれしかないだろう。
「それもあまり…あっ!一つだけあるぞ」
「何か、中山さんが殺されるような理由があるんですか?」
「まあな。二年前、当時テニス部に所属していた一年生の女子が部活で同級生や先輩達からいじめを受けて、それを苦にして自殺したんだ」
やはりその話が出てきたか…
「その話なら僕も聞いたことがあります。ですが僕の聞いた話では、自殺の原因は父親からの虐待だったという事でしたが」
「まぁそれも自殺の大きな原因の一つなんだろうけれど…俺達当時の生徒達の間じゃあ、いじめを受けていたっていう説の方が強いな。仲山もそれに少なからず加担してたみたいだし…」
「それでは、自殺に追い込まれたその女の子の仇を討とうと、自殺に追い込んだ者の一人である中山さんを殺害したと?」
「遺書なんて残ってなかったらしいから、そこの所はよく分からないけど、考えられるとしたらそれしかないだろうな…」
話をする小野寺さんは、かなり苦しそうだった。僕が中山美花の話をした最初の時よりも、彼女達に自殺に追い込まれた少女の話をしたとたんに…そんな彼にこれ以上口を開かせたくはなかったのだが、もしかすると事件に関係する事なのかもしれない。僕は思い切って彼に尋ねた。
「失礼ですが先輩、その女の子の事で何かあったんですか?」
「えっ?」
「なんだか先輩、その話をしていたら、とてもつらそうだったので…」
小野寺先輩は黙りこくってしまった。やはり、気分を害してしまったのだろうか?謝った方がいいかもしれない。
「その女子が自殺した日と、俺がこの学校に転入して来た日は丁度、同じなんだ」
僕が謝る前に、彼は口を開いた。別に怒っていない様子だったので安心したけれど、それより、何か重要な話が聞けそうなので、期待を膨らませた。
「俺、親の都合で中学一年から高校一年の最初まで、北海道で暮らしてたんだ」
小野寺さんの口調が若干明るくなった。きっと、北海道での暮らしは充実としたいいものだったのだろう。
「高一の時、親の都合がついて、十月の中旬という中途半端な時期にこっちへ戻る事になって、この学校に転入してくる事になったんだ。正直、俺はもう少し向こうで生活したかったんだけどな…」
「それで…」
「この学校に来ての記念すべき第一日目が終わって、さぁ、家に帰ろうと思った時、近くで何かが潰れるようなものすごい音がしたんだ。何だろうと思って行ってみると…」
「…御愁傷様です」
「どうも。俺が一番乗りだった。女子の制服を着ていたから、一目で女の子だって分かったんだが、頭から突っ込んだんだろうな。生前、どんな顔だったか…」
それからまた、しばらくの沈黙があった後ようやく口を開いた。
「人が自ら命を絶った事よりも、もっとショックな事があった」
「何ですか」
「その女の子の無残な遺体をカメラで撮ったヤツがいるんだよ!」
いきなり小野寺先輩は大声で怒鳴りだした。これには周りの生徒達も何事かと彼の方を見たし、僕も驚いて一歩後ろに引いた。
「信じられるかよ?人が無残な死を迎えたってのに、その遺体を何のためらいもなく写真に…」
周りの同級生達の視線に気づいたのか、彼は口をつぐんだ。
「そのカメラで遺体を撮ったヤツは、一体どんなヤツでしたか?」
彼の話を聞く内に、いつしか僕の胸にも怒りがわいてきた。おそらく、小野寺先輩の抱いた以上の怒りが―
「忘れるものか。名前は知らないが、その当時俺と同じ一年生で背が高く、眼鏡を掛けていた」
どうやらもう一度、あの部屋に行かなければならないようだ。
その時、昼休み終了のチャイムが高々と鳴り響いた。早く教室へ戻り、午後の授業の準備をしなければならない。
「貴重なお時間を取らせてすみません。調査のご協力、本当にありがとうございました」
「いやいや、礼には及ばないさ。俺からも、るみや先生に君の調査に協力するよう、言っておくから」
「ありがとうございます。それでは…」
「おうっ。がんばれよ」
小野寺先輩と挨拶を交わすと、僕はその場を後にした。




