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第8話:魔剣と剣聖ジーン

ギルドに戻ると、受付の周りには異様な緊張感を孕んだ人集りができていた。


「あ! 剣士さん! 厄介な討伐が入ってきたんだけど、お願いしてもいいかな?」


チノの顔には、いつもの快活さではなく、どこか怯えの色が混じっていた。


「ああ、引き受けよう」


「相変わらず内容も聞かずに受けるんだね……」


「次は何を斬ればいい?」


「人……なんだけど、元は凄腕の冒険者なんだ。前までは『剣聖』と呼ばれていたんだけど、今は『人斬りジーン』という不名誉なあだ名がついている」


「剣聖ジーンがお尋ね者に!?」

レノアが驚愕の声を上げた。


「うん。信じられないけど、ベテランの冒険者たちが次々と斬られているの……」


「わかった。どこへ行けば会える?」


「町外れだよ。頼んだわよ、二人とも」



町外れの荒野に到着すると、肌を刺すような重苦しい殺気が二人を包み込んだ。


「……いるな」


「剣聖ジーンは人を斬るような人じゃないはずです。穏やかで優しくて……」


レノアが必死に自分に言い聞かせるように呟く。


「俺は、斬るだけだ」


「待ってください、私に話をさせていただけませんか!?」


「——無理のようだ……!」

ギィィィィィィィン!!

激しい金属音が響き渡った。レノアの死角から放たれた目にも留まらぬ斬撃を、剣士が間一髪で受け止めていた。


距離を取った男の手には、黒く澱んだ禍々しい光を放つ剣が握られている。


「魔剣か……」


「ジーンさん! 目を覚まして!」


レノアの叫びも虚しく、ジーンの標的は剣士へと移った。


疾風怒濤。重力を無視したような速さで切り込んでくるジーンの連撃。剣士はそれを重厚な両手剣で受け流すが、あまりの衝撃に足が地面を滑る。


「……なんて力だ」


ジーンは恐ろしい速度で次々と斬撃を繰り出す。しかし、剣士はその全てを寸分違わず受け切ってみせた。


「す、すごい……」


レノアはハッと我に返り、援護のために詠唱を始めた。


だが、その途中で必要がないことに気づく。剣士の鋭い連撃が、逆に剣聖と呼ばれた男を追い詰め始めていたのだ。

一瞬の隙を突き、剣士の刃がジーンの剣を豪快にかち上げた。そのままの勢いで、魔剣を握る右腕を肩口から斬り飛ばす。


「うぅ……っ」


ジーンは肩を押さえ、苦悶の声と共に地面に膝をついた。


「こ、殺せ! 殺してくれ……!」


「剣士さん待って! 魔剣が離れた今、ジーンさんはただの人間です!」


レノアが必死に剣士の腕を掴もうとする。


「ち、違う……!」


ジーンの絶望的な叫びと共に、彼の肩口からおぞましい触手が伸び、地面に落ちた右腕へと絡みついた。強引に肉を引き寄せ、再び接合していく。


「殺してくれ……っ」


その言葉が終わるか終わらないかの刹那、剣士は一刀のもとにジーンを叩き伏せた。


しかし、それでも傷口から触手が湧き出し、ジーンの形を保とうと縫合を続ける。


ならばと、剣士は狙いをジーンではなく「魔剣」に定めた。


渾身の重撃が魔剣の刀身を直撃し、それを両断した。


魔剣がこの世のものとは思えない悲鳴を上げ、黒い煙を噴き出しながら一振りの古びたなまくらへと姿を変える。


「……ありがとう」


ジーンは憑き物が落ちたような穏やかな表情を浮かべ、開ききった傷口から血を流しながら、その場で静かに息を引き取った。


「……ジーンさん」


レノアが傍らに跪き、祈るように瞳を閉じる。


折れた魔剣とジーンの亡骸から、二つの青白い魂が浮き上がった。

それは吸い寄せられるように、いつものように剣士の中へと消えていった。

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