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第5話:記憶の断片

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立ち上がる身体は悲鳴を上げていたが、それでも剣士は己に鞭を打ち、泥を吐き捨てて前を睨む。眼前では、なおも巨人が死を運ぶ足取りで歩みを進めていた。


巨人が、手に持っていた大樹を槍のように投げつけてくる。


その瞬間、剣士の脚からふっと力が抜け、ガクリと膝を突いた。だが、それが幸いした。頭上スレスレを、唸りを上げて大樹が通り過ぎていく。


攻撃を避けられた巨人は怒り狂い、地響きを立てて突進を仕掛けてきた。その巨躯による、容赦のない体当たり。剣士は間一髪でその股下を素早く潜り抜けると、すれ違いざまに巨人の左足首を狙った。鋭い一閃がアキレス腱を断ち切る。


ぐらりと体勢を崩した巨人の隙を見逃さず、右の腱も同じように切り裂いた。


その代償に、剣が半ばから折れた。だが、両足を奪われた巨人は、山が崩れるような音を立ててその場に転倒する。


剣士は素早く背中に飛び乗り、折れた剣で執拗に切りつけた。巨人は苦悶に悶えながら仰向けになり、再び剣士を捕らえようと巨大な右手を伸ばす。剣士はそれを冷徹に捌き、右手首を切り裂いた。鮮血が吹き出すが、それでも致命傷には至らない。続けて迫る左手。剣士は折れた剣を叩き込み、その小指を根元から切り落とした。


巨人は天を衝くような叫び声を上げ、剣士を振り落とそうと狂ったように暴れ狂う。猛烈な衝撃の中、しがみつく剣士の瞳が巨人の肌に刻まれた「模様」の法則性を見破った。模様を辿ったその先——額に、小さな魔法陣が刻まれている。


剣士は暴れる巨体の上を死に物狂いで這い上がり、ついに額へと辿り着いた。至近距離で見れば、巨人の顔には目も鼻も口も存在しない。


剣士は、残った折れ剣を魔法陣へと叩きつけた。無我夢中で、めちゃくちゃに切りつける。何度も、何度も。


ついに根元から剣が完全に折れた瞬間、巨人の動きが止まった。


激しい痙攣のあと、巨人の身体が内側から崩れ始める。最後の一際大きな雄叫びを森に響かせ、巨像は音もなく灰へと帰した。


剣士は、その場に立ち尽くした。


もう、剣は手に残っていなかった。


その時、降り積もった灰の中から巨人の莫大な魂が溢れ出し、剣士へと引き寄せられ、その身に深く吸収されていく。


ドクン――。


一度、心臓が激しく跳ねた。

脳裏に、古の風景が断片的な鮮烈さで蘇る。


――今は亡き王宮、静まり返った玉座の間。王の側近である魔術師が、奇怪な呪文と共に王を刺し殺している。


剣士は魔法陣の中に膝をつき、金縛りにあったかのように動くことができない。

魔術師への失望。

王を失った無念。

それだけが、胸に残った。


「……そうか。俺は、あの魔術師を探していたんだ」


剣士は自らの目的を思い出した。


しかし、自らの名も、それ以上の詳細も、霧の彼方に消えたまま思い出せない。


それが、堪らなく悔しかった。


剣士はギルドへ戻るため、傷ついた身体を引き摺るようにして、静寂の戻った森をあとにした。

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