第4話:西の森の巨人
ギルドへ戻った剣士を、チノは呆れと驚きが混ざった表情で迎えた。
「はい、これが報酬。……ねえ、今日一日で何件解決するつもりなの?」
「他に討伐はないか?」
「緊急じゃないけど、西の森に巨人が出てるの。本当は正式な登録がないと受けられないんだけど……」
チノは少し考え、不敵に微笑んだ。
「そうだ。その巨人を倒せたら、文句なしに登録を認めてあげる! 特例の実績ありってことで、どう?」
「わかった」
「あ、あの!」
背後から、レノアが慌てて呼び止めた。
「魔力を補給したら、次は私も連れて行ってくれませんか? お願いです!」
「考えておく」
剣士はそれだけ残すと、西の森へと足を向けた。
◇
西の森に辿り着くと、そこは不気味なほど静まり返っていた。人影はもちろん、魔物や動物の気配すら皆無だ。
標的はすぐに見つかった。周囲の巨木を遥かに凌ぐ、圧倒的な質量。魔法生物なのか、その肌には古代の紋様が刻まれ、脈動するように鈍く光っている。
巨人は剣士の接近に気づくと、大樹を一瞬で引き抜き、それを棍棒代わりに振り回した。
――ドォォォォォン!!
耳を劈くような衝突音。
剣士の身体は、なぎ倒される木々を突き破りながら、遥か後方へと吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
鎧が軋み、衝撃が全身を貫く。立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。
巨人が地響きを立ててゆっくりと近づく。
奴は手にした大樹を高く掲げ、地面の上の「小虫」を潰さんと、容赦なく振り下ろした。
剣士は死に物狂いで横へと跳んだ。
一瞬前まで彼がいた場所が粉砕され、凄まじい振動が地面を揺らす。
驚愕に揺らぎそうになる意識を無理やり繋ぎ止め、剣士は思考を切り替えた。
——倒す。それだけを考える。
「魂よこせ」
剣士は地を這うような姿勢で巨人の懐へ加速した。
巨人が再び大樹を振り下ろすが、今度は紙一重でかわし、地面にめり込んだ腕を足場に駆け上がる。一気に肩まで到達すると、剣士は渾身の力でその首筋を切り裂いた。
噴水のような鮮血が噴き出す。だが、巨体ゆえに致命傷には程遠い。
「……ガァァァァッ!」
巨人は吠え、肩の上の不快な存在を鷲掴みにした。
抗う間もなく、剣士の身体は遥か上空へと放り投げられる。
木の枝や葉がクッションとなり、かろうじて即死は免れた。だが、地面に叩きつけられた衝撃は重い。視界が点滅し、意識が遠のきかける。
フラフラと立ち上がる剣士の視界の先、巨人の巨大な影が、一歩、また一歩と死を運ぶように近づいていた。




