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第31話:悪魔

悪魔に自我があるのか、それともただ破壊の衝動に従っているだけなのか。

異形は咆哮と共に、周囲の草木へ向かって無慈悲に火炎を吐き散らし、一帯を地獄のような火の海へと変えた。


「――っ!!」


ベルクートは揺らめく炎を切り裂き、巨躯に向かって地を蹴った。後方ではレノアが、震える声を押し殺して必死に詠唱を紡いでいる。


悪魔は即座に反応した。巨大な翼を力任せに羽ばたかせ、凄まじい風圧を叩きつける。暴風に足止めを食らったベルクートへ、さらに追い打ちをかけるような極大の火炎が放たれた。ベルクートは退魔の剣を盾にして耐えるが、その手足は猛烈な熱に焼かれ、焦げた匂いが立ち込める。


「――炸裂せよ!!」


その時、レノアの詠唱が完了した。

放たれた爆破呪文が悪魔を襲う。だが、悪魔は反射的に両腕を交差し、胸に埋まった「ラミレスの顔」を死守した。


凄まじい地響きと共に、爆炎が悪魔の両腕を粉々に吹き飛ばす。


その隙をベルクートは見逃さなかった。焼けた手足の激痛に歯を食いしばり、疾風の如き二閃で悪魔の両足首を深く断ち切る。


巨躯が仰向けに倒れ込み、絶好の好機が訪れた。


吹き飛んだ両手と足の切断面からは不気味な煙が立ち上っている。ベルクートは倒れた胴体へと飛び乗り、一点、弱点であるラミレスの顔へ退魔の剣を突き立てようと振り上げた。


――この至近距離なら、火は吐けまい!


「ラミレス、すまん!」


決別の叫び。だが、それよりも早く、悪魔の口から冷酷な響きが漏れた。


「……炸裂せよ」


詠唱を介さぬ、無詠唱の爆破。

至近距離で爆鳴を喰らったベルクートは、再び紙切れのように虚空へ吹き飛ばされた。


煙が晴れた時、そこには悪魔の信じがたい姿があった。失われたはずの両手足はすでに再生を終え、その断面から赤黒い肉が脈動している。


「剣よ、現れよ」


悪魔が空を掴む。召喚魔法によって現れたのは、禍々しいオーラを放つ巨大な黒剣だった。


ベルクートは爆破の衝撃で意識を失い、地に伏したまま動かない。


「ベルクートさん! 起きて! ベルクートさん!!」


駆け寄ったレノアが、半狂乱でその身体を揺さぶり起こす。

一歩、また一歩。巨大な死神が、その大剣を引きずりながら、獲物を屠るために近づいてくる。

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