第30話:変貌
ラミレスの身体が、ゴキゴキと不吉な音を立てて節々から折れ曲がり、異形へと変貌を遂げていく。
膨れ上がる巨躯。剥き出しの牙を並べた獣の貌。青ざめた肌に、憎悪を煮詰めたような赤い瞳。頭上からはねじくれたヤギの角が突き出し、下半身は禍々しい体毛に覆われ、背中からは漆黒の翼が噴き出した。
それは、古の伝承に語られる「悪魔」そのものの姿だった。
ただ一つ、その悍ましさを際立たせていたのは、悪魔の胸の中央に、生気を失ったラミレスの顔が埋め込まれていることだった。胸のラミレスは、血の涙を流しながら、今にも消え入りそうな声で呟く。
『逃げろ……ベルクート……』
だが、悪魔の顎が開き、鼓膜を震わせる咆哮がそれを掻き消した。
「レノア! 爆破呪文を! ……レノア?」
ベルクートが叫ぶが、隣に立つレノアは返事すらできない。目の前の圧倒的な「死」を体現したような異形に、恐怖で心神を喪失し、ただ震えながら放心していた。
「レノア!」
もう一度強く呼びかけると、彼女はハッと息を飲み、現実へと引き戻された。
「こ、ここで爆破呪文は、威力が強すぎて自滅します……地上に出ましょう!」
「わかった。引くぞ!」
二人は地上を目指して、崩れゆく階段を駆け上がる。その背後で、悪魔はさらに巨大化を続けていた。巨躯の頭部が天井を突き破り、石材を粉々に砕き散らす。
「閉所は危ない! 城の外に出るぞ!」
「でも、外にはまだゴーレムが!」
「ゴーレムを斬り抜けて広場へ出るんだ!」
悪魔は古城の壁を紙細工のように破壊しながら、地下から這い出してきた。ベルクートは周囲から押し寄せるゴーレムの群れを退魔の剣で強引に振り払い、開けた広場へとレノアを導く。
辛うじて広い場所へと辿り着いたが、そこには既に、天を衝くほどの巨体となった悪魔が待ち構えていた。悪魔は再び咆哮を上げ、丸太のような拳を握り締めると、ベルクートを目掛けて一気に振り下ろした。
ベルクートは退魔の剣を構え、その巨大な拳を斬りつけながら受けに回った。だが、生物の域を超えた悪魔の怪力を完全に殺しきることは叶わず、ベルクートの身体は激しい衝撃と共に後方へと吹き飛ばされた。




