第3話:ゴブリン退治
魔物の巣窟へと向かう街道、剣士は四人の野盗に囲まれていた。
「金と食料を置いていきな」
下卑た笑みを浮かべる男たちに、剣士は無機質な声を返す。
「やめておけ」
「野郎ども! やっちまうぞ……っ!」
凄んだ男の喉を、剣士の刃が音もなく貫いた。
野盗は血泡を吹き、その口から溢れ出した青白い魂が剣士の甲冑へと吸い込まれていく。
「な、なんだこいつは!」
仲間が文字通り「魂まで抜かれた」様を見て、野盗たちは腰を抜かし後ずさる。
だが、剣士の踏み込みはその恐怖よりも速かった。瞬く間に二人が切り捨てられ、魂の奔流が剣士に流れ込む。
「み、見逃してくれ!」
最後の一人が叫ぶと、剣士は剣を引いた。
「……行け」
何度も転びながら必死に逃げ出す男の背を、剣士は追わなかった。慈悲ではない。魂を狩る価値すら、今の彼にはなかっただけだ。
◇
魔物の巣窟——それは不気味な静寂に包まれた薄暗い洞窟だった。
松明を掲げ、剣士は中へと歩を進める。背後から一匹のゴブリンが奇襲を仕掛けてきた。錆びたナイフが甲冑の隙間を狙う。
だが、剣士は気配を察知していた。全身甲冑の重さを感じさせない軽業師のような身のこなしでバク宙を決め、ゴブリンの背後を奪う。そのまま、背中から心臓を串刺しにした。
痙攣するゴブリンから魂を奪い、奥へと突き進む。
「男だ……殺せ!」
「男は殺せ!」
十匹ほどのゴブリンがわらわらと現れ、一斉に牙を剥く。
剣士は松明を掲げたまま、片手の剣を一閃させた。それだけで四匹の首が宙を舞う。たじろいだ一匹を真っ二つにし、散り散りに逃げ出す残りの個体も逃さない。背を向けたゴブリンを一人ずつ確実に、事務的な手際で切り捨てていった。
◇
洞窟の最奥には、粗末な牢屋に入れられた女魔法使いと、その傍らで居座る巨大なボスゴブリンがいた。
剣士は散歩でもするかのような足取りで近づく。側近の二匹が飛びかかってきたが、横薙ぎの一撃でまとめて両断した。
「……人間?」
ボスゴブリンが重い棍棒を振りかぶる。しかし、それが振り下ろされるより早く、ボスゴブリンの両腕は地面に転がっていた。
絶叫する怪物の首を、剣士は同情の一片もなく跳ね飛ばした。
「大丈夫か?」
剣士は牢の中の魔法使いに声をかけた。だが、彼女は目の前で繰り広げられたあまりの惨劇に、言葉を失い口をパクパクとさせている。
剣士はボスゴブリンの遺体から鍵を拾い上げ、牢の扉を開いた。
「……大丈夫か?」
「え、あ、は、はい……!」
ようやく我に返った彼女が、震える声を絞り出す。
「助けてくださり、ありがとうございます……。私、レノアと言います。良かったら、お名前を……」
「名前は覚えていない。剣士だ」
「剣士さん……強いんですね。それに、あの、青白いものが吸い寄せられているように見えたのですが……。あれ、魂ですよね?」
恐ろしいものを見るように震えながら剣士に聞いた。
「……そうだ。それより町に戻るぞ。ついてこい」
「は、はいっ!」
レノアは慌てて剣士の後を追う。彼女の視線は、剣士の背に刻まれた紋章に釘付けになっていた。
「け、剣士さんのその紋章、遥か昔に滅んだ王国のものですよね? あなた、一体何者なんですか?」
レノアは恐る恐る尋ねた。
「覚えていない。気づいた時には、廃城にいた」
「何か覚えていることはないんですか?」
剣士は足を止めず、短く答えた。
「剣の扱いと……魂吸いの呪いのことだけだ」




