第28話:大魔導士ラミレス 前編
地下の重厚な扉の奥で待っていたのは、かつての親友の「末路」だった。
「よくぞ来た、ベルクートよ……」
嗄れた声が闇に溶け、ローブを深く被った老人が現れる。その姿を認めた瞬間、ベルクートの胸の鼓動が激しく打ち鳴らされた。
ドクン――!
記憶が鮮烈に逆流する。
まだ若く、希望に満ちていた二人の語らい。酒を酌み交わし、王への忠誠と友情を誓い合ったあの日。
そして、その誓いが血の色に染まった玉座の間の光景。
『王はご病気だ……このままでは、我らの王を失うぞ』
『それも自然の摂理だ、ラミレス! 邪法に惑わされるな!』
親友の狂気を止められなかった後悔。王が刺され、自分が「魂を喰らう鎧」へと変えられた瞬間の絶叫。全てが今、一つの線で繋がった。
「ベルクートさん!」
レノアの叫びで、ベルクートは意識を現世に引き戻した。
目の前のラミレスは、もはやかつての面影もないほどに痩せ衰え、その瞳にはどす黒い影が宿っている。
「ベルクートよ……俺は、死ねんのだ」
「ラミレス、今すぐこの呪いを解け。そして、全てを終わらせるんだ」
「……無理だ。呪いを解いた瞬間、悪魔がお前に囁き続けることになる」
「何の話だ?」
「すまない。お前に……殺されるわけにはいかん。許せ」
ラミレスの枯れ木のような手が上がり、詠唱が始まる。
ベルクートは即座に腰のベルトから投げナイフを抜き放ち、その喉笛を目掛けて投擲した。しかし、ナイフはラミレスの体を砂の山でも通るかのように、虚しく通り抜けて床に転がった。
「ラミレス……お前、その体は……」
実体がない。あるいは、既にこの世のものではない何かに変質している。
悲しげな瞳をしたラミレスが、非情な呪文を完成させた。
「許せ! ――炸裂せよ!!」
その瞬間、地下室の空気が一気に膨張した。
禍々しい魔力を孕んだ爆破魔法。轟音と共に、部屋一面を紅蓮の炎と破壊の嵐が飲み込んでいった。




