第27話:ゴーレム
ドラゴンの魂がベルクートへと溶け込む。
――かつて、一人で挑んだ大立ち回りの記憶。
咆哮を上げ、山を焼き尽くさんとした巨躯の首を跳ね飛ばした、あの瞬間の剣の重さ。そして、熱い返り血の感触。
しかし、魂が運んできたのはベルクートの記憶だけではなかった。
高く、澄み渡る空を自由に舞う景色。ひび割れた卵から産声を上げた、小さく愛おしい命。獲物を与え、我が子が健やかに育っていくのを静かに見守る温かな親心。
ベルクートは、物言わぬ肉塊となったドラゴンの亡骸を静かに見つめた。
――そうか、お前は……あの時のドラゴンの子供だったのか。
かつて討った竜の遺児が、時を経て自分と刃を交えた。数百年という時の残酷さと、奇妙な縁に胸が締め付けられる。
「ベルクートさん、どうしました?」
「……いや。行こう」
ドラゴンの血の匂いは、周囲の魔物たちにとって何よりの警告だった。ベルクートに牙を剥こうとする者は現れず、二人は険しい山道を突き進む。
「山道だが、体力は大丈夫か?」
「はい! それに魔力と体力は関係ないので。……あ、あれですね」
視線の先、絶壁の上に聳え立つのは、禍々しいオーラを放つ古城。ラミレスが潜む、禁忌の地。
城に近づくにつれ、不自然に地面が盛り上がり、巨大な土塊の巨像——ゴーレムたちが次々と姿を現した。
「レノア! 止まるな、走るぞ! 俺が道を切り開く。いざという時は、額の文字の頭文字を消せ!」
「わかりました!」
ベルクートの退魔の剣が閃き、迫りくるゴーレムの岩の腕を叩き斬る。
レノアに向かって振り下ろされた拳をベルクートが弾いた瞬間、彼女はその隙を突いて杖の先でゴーレムの額に触れた。術式を象る文字の頭文字が消え、生命を吹き込まれていた土塊は、ただの泥となって崩れ落ちる。
斬り伏せるベルクートと、術式を無効化するレノア。
息の合った連携で押し通る二人は、ついに古城の巨大な城門へと辿り着いた。
固く閉ざされた鉄の門を、ベルクートは退魔の剣の重みで強引に切り裂く。
城内へ滑り込むと同時に、レノアは追手を阻むため、入り口に手早く聖水を撒き清めた。
重苦しい静寂が支配する古城の中。
「……上か、下か」
ベルクートは鼻を突く死臭と、微かに漂う魔力の澱みを嗅ぎ分ける。
「地下だ。奴の歪んだ研究の匂いがする」
確信を持って、ベルクートは暗い地下階段へと足を踏み出した。




