第23話:北の古城
「あ! 剣士さん! ……って、あれ? なんだか雰囲気変わった?」
ギルドに戻るなり、チノが目を丸くしてベルクートを見上げた。以前の、死んだ魚のような瞳ではない。そこには英雄としての、鋭くも深い知性が宿っていた。
「チノ。大魔道士ラミレスについて、詳しく知っている者はいないか?」
「え、詳しい人? 歴史学者かな……。あ、でも伝説では崖の上の古城に住んでるって、何かの本で読んだ気がする」
「歴史学者か。どこにいる」
「北の王都に行けばいるんじゃないかな」
「北に王都があるのか。」
隣に立つレノアの顔には隠しきれない疲労が滲んでいたが、彼女はそれを強引に押し殺して笑った。
「行きましょう! 私、準備します!」
「……いや、一度休もう。準備も必要だ」
「……なんか剣士さん、最近人間っぽいですね。前だったら『置いていく』とか平気で言ってたのに」
レノアの茶化すような言葉に、ベルクートは微かに口角を上げた。
「そうか? ……チノ、この辺りで本を読めるところはないか?」
「本? 読書の趣味でも作ったの?」
「ラミレスについて知りたいからね」
「それなら、鍛冶屋のドワーフさんとかに聞いてみたら? 長生きでしょ、ドワーフって」
「そうだな。ありがとう、チノ」
ベルクートは一人、再びドワーフの鍛冶屋を訪ねた。
「今日は何の用だ」
相変わらず、トムは手を止めずに火花を散らしている。
「今日はラミレスについて聞きに来た。何か知っているか?」
その名が出た瞬間、トムの手が止まった。
「大魔道士ラミレスのことか……?」
「ああ。探しているんだ」
「探してどうする」
「止める。必要ならば――斬る」
トムは重いハンマーを置き、ベルクートを正面から見据えた。
「俺は又聞きぐらいしか知らんぞ」
「どんなことでもいい。教えてくれ」
「……ラミレスは禁忌の秘術、『不死の邪法』の研究をしている。北の王都よりさらに北、絶壁に立つ古城で今も研究を続けているそうだ。それ以上は知らん」
「そうか。助かった。……ところで、貴方の名はなんと言う?」
不意の問いに、ドワーフは意外そうに鼻を鳴らした。
「本名は長い。トムでいい。お前は?」
「ベルクートだ」
一瞬の間があった。トムはベルクートの腰に差した「退魔の剣」と、その佇まいを改めて眺め、ニヤリと笑った。
「ベルクート……。竜殺しの英雄と同じ名だな」
「ああ」
振り返らずに店を出るベルクートの背中に、トムの呟きが重なる。
「……似合ってやがるぜ。偽名にしちゃあ出来すぎだ」




