第22話:ガーゴイル
剣士――いや、ベルクートを纏う雰囲気が、一瞬にして塗り替えられた。
吟遊詩人が語り継ぐ、伝説の銘。かつて、たった一人で国を滅ぼしかけたドラゴンに挑み、その首を落として王国を救った英雄。歴史の教科書にのみ存在するはずのその男が、今、目の前に立っている。
「あなたが、あの……英雄ベルクート……さん?」
レノアは驚きのあまり目を白黒させた。だが、眼前の男から放たれる「気」は、先ほどまでの迷える剣士のそれではない。荒ぶる竜をもねじ伏せる、研ぎ澄まされた鋼のような威圧感。
「レノア。ラミレスを止める。――手伝ってはくれないか?」
その真っ直ぐな言葉に、レノアは弾かれたように頷いた。
「え、ええ! 喜んで! どこまでもついて行きます!」
「ありがとう。……まずは情報を集めたい。何せ、俺にとっては数百年後の未来だからな」
「そうですね。まずはギルドに戻りませんか? チノさんなら何か知っているかもしれません」
「ああ、そうしよう」
二人が城の広間を抜け、村へと戻ろうとしたその時。頭上を不吉な影が横切った。
先ほどまで静かな石像だったガーゴイルたちが、命を吹き込まれたかのように次々とその翼を広げていく。
全部で六体。
魔力が底を突き、肩で息をするレノア。ガーゴイルの皮膚は岩石のように硬く、並の攻撃は通用しない。
「ベルクートさん……!」
不安げに名を呼ぶレノアに対し、ベルクートは静かに退魔の剣を構えた。
「レノア、大丈夫だ。下がっていろ」
三体のガーゴイルが鋭い爪を立て、同時に襲いかかってくる。
だが、目醒めたベルクートの敵ではなかった。
踏み込みの一歩で石床を砕き、放たれた横薙ぎの一閃。それは、かつて巨竜の鱗をも容易く断ち切った剣筋。
三体のガーゴイルは抵抗する間もなく、まとめて上下に両断された。
レノアの目には、その瞬間のベルクートが神聖な光を纏っているかのように見えた。
残る三体も絶叫を上げて飛びかかってくるが、ベルクートは最小限の動きでそれを回避し、流れるような剣さばきで次々と一刀両断していく。岩の破片が虚しく地面に転がった。
一匹、レノアの方へ向かった。
レノアが短く悲鳴を上げたところにベルクートは素早く後ろから突き刺した。
「大丈夫か?」
「す、すごい……これが、本物の……」
「さあ、行こう。ここにはもう用はない」
英雄の帰還。
二人は数百年の時を超えた決戦の準備を整えるため、再びギルドのある村へと向かった。




