第15話:エルフ
帰り道は、レノアが借りてきた馬のおかげで速かった。
ギルドに戻ると、チノに巨人の討伐と、リザードマンの手によって村が滅んでしまったことを報告した。
「そっか、村は全滅か……。ありがとね。はい、これ報酬」
「巨人の依頼があったら、すぐに教えてくれ」
「巨人を倒せるのなんて、そもそも剣士さんくらいだよ。でも、依頼にはなってないけど、この村の南にも一体いるみたい。あとは誰も近づけない亡国の城跡の近くだけど、あそこは依頼なんて出せないし……」
チノは少し考え込み、ギルドの掲示板から一枚の紙を引き抜いた。
「南の方なら別の討伐依頼があるから、行くならついでにやってきてよ。お尋ね者のエルフ討伐」
「エルフ? 普通、彼らはエルフの森にいるものでしょう?」
レノアが不思議そうに聞き返した。
「普通はね。でもそのエルフは森を追放されたらしいの。人を殺して皮を剥ぐ極悪人で、『皮剥ぎエルフ』なんて呼ばれてる。しかも、一人じゃないらしいよ」
「ひえっ……」
「わかった。行ってくる」
◇
「剣士さん、エルフに会ったことはありますか?」
南へ向かう道中、レノアが問いかけた。
「……思い出せた記憶の中には、ないな」
「私はあるんですが、彼らは本来、血なまぐさいことを嫌う誇り高い種族のはずなんです」
「人間と一緒で、凶暴なやつもいるということだろう」
会話を交わしていた、その瞬間だった。
レノアの喉元を目掛けて、一本の矢が風を切って飛来する。
剣士は驚異的な反射速度で手を伸ばし、その矢を素手で掴み止めた。
「人間! これ以上進めば殺す!」
茂みの奥から、冷酷な声が響く。
「この辺りで人の皮を剥ぐ、お尋ね者のエルフを討伐しに来た」
「つまり、我々の敵だな?」
エルフが指笛を吹くと、周囲の樹上から数人のダークエルフが現れた。
一斉に放たれる弓矢。しかし、剣士はその全てを重厚な両手剣の面で叩き落としていく。
「燃えろ!」
エルフが火炎呪文を唱え、巨大な火の玉が二人を襲う。
剣士はレノアを抱え上げ、爆風の圏外へと大きく跳んだ。だが、着地の瞬間――。
「……っ!」
死角から放たれた別の一矢が、剣士の太ももを深く貫いた。
剣士はすぐさま矢を引き抜いたが、傷口から全身へ、焼けるような痺れが急速に広がっていく。
――毒か。
「今だ! 皮を剥いでしまえ!」
好機と見たダークエルフたちが、ナイフを構えて一斉に襲いかかる。
しかし、彼らが踏み込むより早く、詠唱を終えたレノアの叫びが森を震わせた。
「炸裂せよ!!」
凄まじい爆破が森を薙ぎ払い、巻き込まれたダークエルフたちは無惨に砕け散った。
「その魔法は禁術……! 忌々しい人間め!」
リーダーのエルフが、憎悪を込めて再びレノアに矢を射る。
自由の利かなくなりつつある身体で、剣士はその矢を手のひらで無理やり受け止めた。
それと同時に、毒の回った膝がガクりと落ちる。
レノアとエルフは、互いに呪文を唱えぶつけ合った。
激しい爆発と紅蓮の炎がぶつかり合う。だが、連戦のレノアは消耗が激しく、足取りがフラフラと定まらない。
それを勝機と見たエルフは弓を捨て、鋭いナイフを逆手に構えてレノアへ肉薄した。
間合いに入った、その刹那。
「――おおぉぉっ!!」
剣士の豪剣が、真横からエルフの胴体を一文字に振り抜いた。
毒に冒され、本来なら指一本動かせないはずの身体。だが、それは死地で培われた執念が生んだ、根性の一撃だった。
エルフの上半身が鮮血を撒き散らしながら吹き飛ぶ。
「馬鹿な……痺れて、動けないはずなのに……」
下半身はその場に立ち尽くしたまま倒れ、吹き飛ばされた上半身は、離れた草むらへと無様に転がった。




