第14話:巨人の正体
巨人の灰から溢れ出した膨大な魂が、剣士の甲冑へと吸い込まれていく。
ドクン――!!
心臓がこれまでにないほど激しく跳ねた。
脳裏に、陽光の差し込む古の風景が断片的に、しかし鮮烈に蘇る。
そこは、今は亡き王宮の訓練所だった。
子供の頃、幾度となく目にした光景。一人の騎士が無心に剣を振るっている。その背中を、剣士は知っていた。父だ――。
『息子よ、お前には才能がある』
大きな掌が、不器用にごしごしと自分の頭を撫でる。
『お前も、ついに騎士になったか!』
自分のことのように顔を綻ばせ、豪快に笑う父の姿。
剣士は、その場で震える拳を握りしめた。
――ああ、そうか。
意識の中で、あの誇り高き騎士の姿が、今しがた倒した『巨人』へと重なっていく。
「『巨人』は……俺の大事な人たちだったんだ」
最初の巨人は親友。喧嘩っ早くて乱暴だが、誰よりも友達想いだった男。
そしてこの二体目の巨人は、自分の誇りであり、目標だった偉大な騎士——父。
しかし、そこで映像は途絶え、記憶の糸はまたも断ち切られてしまう。
親友も、父も、そして自分自身の名前すら、まだ霧の向こう側だった。
剣士は確信した。
巨人を倒し、魂を喰らうたびに、自分の中に「感情」が蘇っている。
最初の一体で「哀」を。
この父であった巨人で「喜」を。
記憶を取り戻し、自分自身を完成させるには、巨人を倒し続けるしかない。それは、かつて愛した者たちを、この手で葬り続けるという地獄の道だった。
じわじわと形を成していく過去。それなのに、肝心の「名」が思い出せないことが、堪らなくもどかしかった。
「……剣士さん?」
傍らに歩み寄ったレノアが、不安げに声をかける。
「巨人は……俺の大事だった人たちだ」
剣士は、絞り出すような声で続けた。
「少しずつだが、記憶が戻ってきている。巨人を倒すたびに、感情と共に……」
レノアは息を呑み、絶句した。
「そんな……じゃあ、記憶を取り戻すには、その人たちを倒さなければならないんですか?」
「ああ」
剣士の言葉は短く、そして重い。
夕闇に包まれ始めた廃村で、二人の影が長く伸びる。
それは、復讐の旅であると同時に、愛した者たちの魂を「喰らう」ことでしか自分を保てない、呪われた騎士の贖罪の始まりでもあった。




