第12話:騎士の巨人
翌朝、剣士を叩き起こしたのは、大地を震わせる重低音だった。
目の前に現れた巨人は、一度目の個体とは明らかに異質だった。肌に刻まれた古代の紋様は脈動するように鈍く光り、その巨大な手には、岩を削り出したかのような無骨な剣が握られている。
巨人は剣士を見ると、猛然と襲いかかってきた。
その剣筋に、剣士は戦慄する。一度目の暴虐な破壊とは違う。それは、よく訓練された騎士のような、洗練された所作だった。振り下ろされる一撃一撃に、何千、何万と繰り返された鍛錬の跡……美しさすら感じるほどの、基礎に忠実な「武」が宿っていた。
そして、この巨人にも顔がない。だが、弱点であるはずの魔法陣もまた、そこにはなかった。
「……模様の集まる先、恐らくは背中か」
攻略法は一度目と同じ。だが、巨人もまた学習していた。手首には頑強な手甲、足首は硬い岩の装甲で覆われ、容易な接近を許さない。
巨人の巨剣が振り下ろされる。速い。
「基礎に忠実な剣筋だ……!」
敵ながら称賛したくなるような一撃を紙一髪で回避し、剣士は振り下ろされた腕へと飛びついた。一気に肩まで駆け上がる。
巨人は激しく身体を揺さぶり、異物を振り落とそうと暴れた。剣士は両手剣を巨人の肩へ深く突き立て、その衝撃に必死に耐える。揺さぶりが収まった隙に背中へ回ろうとしたが、巨人は自らの肩を岩肌の壁へと叩きつけた。
「……ぐあっ!!」
肺から空気が押し出され、視界が火花を散らす。それでも、剣士は手を離さなかった。ここで離せば、二度とこの巨躯を登ることはできないと本能が告げていた。
巨人はなおも狂ったように暴れる。剣士は安定を期すため、両手剣に加えてショートソードをも肩の肉へと突き刺した。二本の牙でしがみつく。
すると、巨人は自重を利用して地面へと倒れ込み、背中の剣士を圧殺しようと試みた。
間一髪、剣士は首筋まで這い上がった。
そして、見えた。予想通り、広大な背中の中央に、脈動する魔法陣が刻まれている。
だが、位置が悪い。首筋からでは、どれほど腕を伸ばしても届かない距離だ。
巨人が再び立ち上がり、首筋にへばりつく剣士を叩き潰そうと巨大な手を伸ばしてくる。
その圧殺の掌を躱すため、剣士はやむなく命綱であった「両手剣」から手を離した。
空中に放り出される身体。重力に従い、剣士は落下する。




