第10話:リザードマン
村が近づくにつれ、空気は生臭さを増していく。
沼地を抜けた先、剣士を待ち構えていたのはリザードマンの群れだった。奴らは無言で、しかし洗練された動きで剣士の間合いへと踏み込んできた。
剣士は先程のアンデッドとの再会で生じた迷いを振り切るように、豪剣を振り抜いた。
リザードマンはバックステップで回避を試みたが、剣士の刃はその速度を凌駕していた。空中で逃げ場を失った数体が見る影もなく上下に切断される。
リザードマンの動きは確かに速い。だが、今の剣士の斬撃は、かつての部下たちの魂によって、さらなるキレを増していた。次々と切り捨てられ、十匹が叩き斬られたところで、残りの個体は散り散りに逃げ出していく。
「……村が危ないな」
この近辺にリザードマンの群れが出没するということは、目的地が無事であるはずがない。剣士は焦燥を抱え、足を速めた。
村へ辿り着くと、光景は凄惨を極めていた。
村人は皆殺しにされ、そこはリザードマンの新たな縄張りと化していた。
静まり返った廃墟の奥から、不意に子供の泣き声が聞こえてくる。
剣士は道を阻むリザードマンを切り捨てながら、声のする方へと走り出した。
だが、辿り着いた先で彼は足を止めた。
「——嵌められたか」
そこに子供の姿はない。リザードマンの一体が、獲物を誘い出すために子供の泣き真似をしていたのだ。
気づけば、四方八方をリザードマンの群れに完全に囲まれていた。
その中央に、一際巨大な個体が鎮座している。
――こいつがリーダーだな。
剣士は両手剣を握り直し、雑魚を蹴散らしながら、蜥蜴の王へと突撃を敢行した。
リーダーのリザードマンは、巨体に似合わぬ恐ろしく速い横薙ぎの斬撃を繰り出した。
剣士は間一髪でそれを受け切る。しかし、リーダーの膂力は異常だった。
防御したはずの剣士の身体は、まるで紙屑のように弾き飛ばされた。
凄まじい衝撃と共に壁に激突し、兜の中で熱い血が込み上げる。
「……受けただけで、これほどのダメージか」
呻く暇さえない。隙を突いて殺到する雑魚を辛うじて両断したときには、既にリーダーが眼前に迫っていた。
再び飛んでくる、重戦車のような一撃。
今度は完璧なタイミングで受け切った。だが、それでもなお衝撃を殺しきれず、剣士は地面を無様に転がった。
「バケモノめ……!」
痺れた両手で折れそうになる意識を繋ぎ止め、剣士は泥に塗れながら立ち上がる。
目の前の「王」は、冷酷な爬虫類の瞳で獲物の最期を確信していた。




