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第1話:亡国の剣士

王道ファンタジー書きたくて書きました!

感想やお気に入り登録をしていただけると、とても励みになります!

冒険者ギルドの喧騒が、その男が現れた瞬間に凍りついた。


現れたのは、頭の先から爪先までを鈍色に包んだ全身甲冑の男。その胸甲には、遥か数百年前に滅び去ったはずの王国の紋章が刻まれている。羽織ったサーコートは泥と返り血に汚れ、ボロボロに擦り切れていた。


冒険者たちはざわめいた。

「あれは、滅んだ王国の紋章だぜ……」

「全身甲冑て……戦争にでも行くのかよ」

「それにしてもボロボロだな……」


だが、受付嬢のチノだけは、いつも通りの快活な笑顔を崩さなかった。


「いらっしゃい! 登録かな? 私はチノ! よろしくね!」


男は兜の奥から、砂を噛むような嗄れた声を絞り出した。


「登録だ。……それと、討伐の仕事はないか?」


「あ、うん。じゃあここに必要事項を書いてね。討伐なら今はゴブリン退治があるけど、それにする?」


差し出された羊皮紙を受け取り、男は無言で羽根ペンを走らせる。だが、名前の欄でぴたりと筆が止まった。


「……名前を、覚えていない」


「え?」


チノが目を丸くする。


「自分の名前だよ? それに出身地……これ、昔滅んだ王国じゃない。本当はどこなの?」


「本当にここだ」


男は迷いのない手つきで、名前の欄にただ一言、『剣士』と書き加えた。

その様子を、背後で飲んでいた大柄な冒険者が苦々しく見守っていた。彼は苛立ちを隠さず、椅子を蹴って立ち上がる。


「おい、チノを困らせるんじゃねえ!」


冒険者が男の肩に手を置こうとした、その瞬間だった。


男は全身甲冑とは思えない、しなやかで鋭い動きを見せた。冒険者の手が触れることさえ許さず、その巨体を軽々と投げ飛ばしたのだ。


「……俺に触るな」


「野郎……っ!」


面子を潰された冒険者は顔を真っ赤にし、腰の剣に手をかける。


「待って待って! ギルドで争うのはやめて!」


チノの制止も虚しく、男に向けて鋭い一撃が放たれた。だが、剣士はひらりと蝶のように身をかわし、冒険者の攻撃は空を切る。それどころか、すれ違いざまに足を引っ掛けられた冒険者は、無様に床へと転倒した。


「やめておけ」


剣士の冷徹な声と共に、重い鉄靴が冒険者の顔を蹴り上げ冒険者は気を失った。

剣士は事もなげにチノへ向き直る。


「これで登録は出来ないか?」


「え、ええ……今ので実力は十分分かったけど、こっちもギルドの信用に関わるから、すぐには……」


「……そうか」


男が背を向けようとしたとき、チノが慌てて声を張り上げた。


「あ、でも緊急依頼なら受けられるよ! ちょっと手強いけど、背に腹は代えられないからね!」


「それでいい」


「まだ詳細も言ってないのに……。隣町がオーガの集団に襲われてるの。そこの全滅、やってくれる?」


「ああ」


剣士は短く応じると、一度も振り返ることなく、オーガが待ち受ける死地へと歩み出した。

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