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エラーコード:ソマティック─盗り還す者─  作者: 山下文明
序走 港のシンデレラ大盗走
2/4

第二盗 ティコティコホールディングス

 レリゴーが道具の整備に没頭しているうちに夜はさらに更けていた。

 その静寂を破るように、リアリーが部屋へ駆け込んだ。


「大変大変っ!!超大物がウチに乗り込んでくるよ!」

「まだいたのか」

「今はそこじゃないっ!!」



 それから数十秒、なんの準備も無しにその時は来た。


 眠気を吹き飛ばすほどに勢いよく開けられた扉はそのまま開口限界位置まで行き、弾かれるように閉じた。


 ティコティコホールディングスの会長と黒服1人が無遠慮に入室してきたのを見て、リアリーはソファを案内する。


「こちらにどうぞ」


 会長はソファに腰深く座ると飲み物とお菓子に目もくれず前のめりに話し始めた。その姿勢は焦りか威圧か。

 いずれにしても、握られた拳には力が入っていた。


 レリゴーは相手が大物だからと変える態度を持っていない。ただそこに自然体で座っている。その隣でリアリーもタブレットを膝に置き会話に参加する。


「ワシの息子が何者かに攫われた。護衛を着けていたんだがろくに仕事もできん無能ばかり。

 金ならいくらで───」

「つまり盗られたんですね。息子さんが」

「……人の話を遮るなと教わらなかったか?」

「焦っているようですし早急に解決したいとお見受けしましたので」


 1を聞いたから2を答える。

 感情の四則演算、心を"割る"ことも思いを"掛ける"こともない。

 恐ろしく冷静に機械的に淡々と情報を積み重ねていく。ひとつも盗りこぼさない為に。



 会長はそんな態度を好ましく思わなかったのか前のめりをやめ、ソファの背もたれに全体重を預けてレリゴーを見下ろすような姿勢となった。


 肌に刺さるような張り詰めた空気が和らいだのと同時に肌に張り付くいやらしさを孕んだ空気に変化したのをレリゴーは感じ取った。



「ワシを誰だかわかっての態度か?あ?クソガキィ」


 そうして放った一言は声に荒さはなく言葉に棘を持つものだった。

 しかし、地を這う声音に対し怯むことなく言葉を返す。


「彼女から聞いてますよ、著名人だと。そんなあなたの息子さんだからこそ早く盗り還さなければ何をされるか分からない。そうですよね。

 ですので誘拐された状況、息子さ──」

「──ジャカァシイ!!

 お前みたいなクソガキ、いつ豚箱に突っ込んだって構わんのだぞァアンッ!!」


 テーブルに叩きつけられた拳に込められた怒りは納まることなくテーブルの上のものを揺らす。

 微かにずれた小皿やペン。レリゴーは一瞥しペンの位置を正した。


「今、ここで争いをしている場合ではありません。必要なのは息子さんが誘拐された詳しい状況です。できるだけ詳しくお願いします。

 私にできるのは息子さんを盗り還すことです。

 ───リアリー」

「もうやってるよ〜」


 レリゴーが問いかけるよりも数瞬早く、リアリーはタブレットの操作を始め街の監視カメラをハッキングした。


「年齢と背格好、写真があればお願いします」

「おいっ。見せてやれ」


 黒服が短く返事をするとポケットからタブレットを取り出しテーブルの上に置く。そのままスクロールして写真を何枚か見せた。

 リアリーは確認すると自身のタブレットへ情報を打ち込んでいく。


「息子さんが大事にしているものはありますか?」

「そんなもんワシが知るか!!いずれワシの跡を継ぐんだ。そんなくだらんものなどいらんっ!」

「…………わかりました」


 逡巡。カウントを少し重ねた後、溜飲。

 レリゴーは真っ直ぐ瞳を覗いていた。

 会長は泳いだ視線、落とした先に映ったお茶を手に取りひとくちすする。




 レリゴーは席を立つとデスクに戻り道具を身につけていく。

 リアリーは街の監視カメラの映像から解析し更なる情報を掴もうと忙しく動き、なにかに気づくとレリゴーへ耳打ちする。

 それを聞いて新たな指示を飛ばすと、リアリーは口の端を僅かに上げて気の昂りを見せた。


「了解。お前は──────てきてくれ」

「骨が折れそうだけど任せてっ」


 部屋の中で忙しなく動き回る2人とそれを見ていることしかできない会長と黒服。

 そうして支度を済ませたレリゴーは一声かけて部屋を出る。


「準備は出来たか?」

「レリゴーReady Go!!」


 背後から聞こえた軽口に眉を僅かに寄せて部屋を出た。




「さぁ会長さんっ。私たちはこれから息子さん救出に向かうのでここを出ましょう。

 報酬の話しは全てが終わってからで」

「……あ、あぁ」


 会長と黒服を乗ってきた車に乗せて家に帰らせた。




 リアリーが1階のガレージに入ると目に入ったのは、メタルマッドなボディを子気味よく揺らし今か今かと鼻息を荒くし駆動を待ち望む四駆の姿。

 そして運転席でグローブをはめているレリゴーはリアリーに気づくと手を伸ばし助手席のドアを開けた。


「わ〜やっさしぃ」

「早く乗れ」



 発進と共に響いた唸り声は立て付けの悪いシャッターを小刻みに揺らした。

 そして公道に出ると3秒もかからず100kmを計測。


「伊達にターボの名を冠してないね。風が気持ちいぃ」


 リアリーは窓から顔を出し橙髪が煽られ風を感じる。

 レリゴーの垂れた2束の前髪は、ポルシェの気持ちよさになびき完全なオールバックが完成する。


 リアリーの解析によりジェスタニック港の倉庫群に誘拐犯が逃げ込んだことを特定。

 2人は港のある南へ真っ直ぐ突き進む。

 次第に街灯は数を減らし、空気は潮風を帯びていた。

 



「てゆーかなんで事務所バレてんのっ。また替えなきゃなんないじゃんっ!」

「替え時だな。海の見える場所がいい」




 そして10分後。風の気持ちよさから解放されたレリゴーの2束の前髪が垂れた。

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