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いい匂い。
ジル兄様にお姫様抱っこされて、庭園に連れて来てもらった。
風を肌に感じるのも久しぶりだ。
「ユティごめんね」
「どうしたの?ジル兄様」
「僕は明日にはここを発ってソルトレグス帝国に帰らなければならない」
そんな申し訳なさそうな顔をしないで。
「・・・いいのジル兄様が忙しいのは分かっているから」
寂しいけれど笑顔を見せないと。
私を見つけたあの日、お医者様から目の状態を聞いたジル兄様は、一度ソルトレグス帝国に帰ってから、私が包帯を取る日に合わせてまた我が家を訪れてくれたらしい。
きっと無理をさせたと思う。
「ジル兄様、私を見つけてくれてありがとう」
「当然だよ。ユティは僕のお嫁さんになるんだからね」
物心ついた頃からジル兄様に会う度に言われてきた言葉。
「本当に私がお嫁さんになってもいいの?」
「僕にはユティしかいないよ。ユティが大好きだよ」
そう言って額にキスをくれる。
「私もジル兄様が大好き」
ギュッとジル兄様の首に手を回して抱きしめる。
「早く元気になって今度は私がジル兄様に会いに行くわ。おじ様にも会いたいもの」
「わかった楽しみに待っているよ。それに父上もユティにすごく会いたがっていたよ」
ジル兄様は別れる時間までずっと私の側にいてくれた。
別れる時も額にキスを落として心配そうな顔をして帰って行った。
だから次にジル兄様に会う時は走れるぐらい元気になったところを見せて驚かせてあげるの。
楽しみに待っていてねジル兄様。
私はほとんど外の世界を知らない。
知っているのは、このラグーナ侯爵家の敷地内と、ソルトレグス帝国のジル兄様の所だけ。
ソルトレグス帝国までの1週間の旅路でも街中を歩くことはなかった。
それはお兄様も同じ。
この国、グラドラ王国では貴族ならば必ず王都内にある王立学園に15歳から通うことを義務付けられている。
それまではこの国の貴族の子供達は家の中で学習し、マナーや礼儀作法を学ぶ。
お兄様が選んだのは、お母様の祖国ソルトレグス帝国への留学。
お兄様とジル兄様は同じ歳で私よりも4歳年上。
ジル兄様と同じ学院に通い、外国からの留学生が多いソルトレグス帝国の学院で学ぶことは勿論、将来のために人脈作りをしてくると言って留学を決めてしまった。
私も学園に通える年になったら、ジル兄様のいるソルトレグス帝国に留学しようと思っていた。
でも今は外交の仕事を辞めて、側にいてくれるお父様と、ソルトレグス帝国から帰ってきたお兄様がいてくれるから、この国の学園に通ってもいいかなと考えている。
だって私がジル兄様に嫁ぐまでは、もっとお父様とお兄様と一緒にいたいもの。
王立学園に入学するまであと10ヶ月ほど。
それまでに、この痩せ細った体と、体力を何とかしないとね。
お医者様と料理長に相談だ。




