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「エドごめんね。上着は弁償するわ」
「別にいいさ替えならいくらでもある」
「ユティ今日はもう早退したら?髪に着いた油をメイドに綺麗に洗ってもらいなさい」
「そうね。医務室で制服を借りて返すのも二度手間ですものね。このまま帰るわ」
「鞄はわたくしが放課後持っていきますわね」
「鞄ぐらい取ってから帰るわよ」
「ユティ察してやれ、リアはラグーナ侯爵家に行く口実が欲しいだけだ」
「な、なるほど・・・」
「そうよ悪い?一目でもいいからレグルス様にお会いしたいの」
「開き直りやがった」
エドは呆れているけれど迫力美人のリアの照れ顔は貴重で可愛い。
「馬車止めまで送るわ」
「ありがとう」
「それよりごめんな巻き込んで。あんな性悪だから俺はアイツが嫌いなんだ」
3人で馬車止めまで歩いていると、エドが申し訳なさそうに謝ってくる。
そして端正な顔を歪ませながら愚痴をつぶやく。
「エドが謝ることじゃないわ」
「そうよ、あれはあの女の性根が腐っていたからよ。ユティの席にわたくしが座っていたら今頃汚れていたのはわたくしだったわ。あの女は相手が誰だろうとエドの近くにいる女が許せないだけよ」
そう、ブリジック嬢のした事にエドが責任を感じることはない。
もしエドが婚約者を見つけようものなら、今度はその相手をターゲットに何をする分からないのが怖い。
「ここまで送ってくれてありがとう。じゃあリア鞄はよろしくね」
「ええ、担任には伝えておくから安心してね」
リアとエドは馬車が出発するまで見送ってくれた。
「はあ」
ため息が出ちゃう。
こんな取れるような汚れなんて気にもしないけれど、あれが淹れたてのお茶だとか、焼き立ての料理じゃなくてよかった。
私の顔に傷でも残ったらブリジック嬢は何かしらの罪に問われる事になっただろう。
それどころか、ジル兄様は絶対に許さないと思うな。
亡くなったお母様がソルトレグス帝国の皇女だった事と、私がソルトレグス帝国の王位継承権を持っている事を公にするのは危険だとお父様もジル兄様も言っていたのよね~
まあ、ジル兄様が私を守るために学園に手の者を侵入させているのは今日一人だけ確認出来たけれど・・・他にもいるんだろうな~
茶色の髪に黒い瞳の彼は体型から見て護衛かしら?
青いネクタイだから同じ一年生ね。
私がソルトレグス帝国で知っている同世代の人はとても少ない。
私が知っているのは、優しい重鎮の方々のお孫さんたちぐらい。
皇城に連れて来られた時に紹介されたのよね。
彼らも何れソルトレグス帝国のジル兄様の側近や護衛につくのでしょうね。
ルビーアやハリソンは元気かしら?
ルビーアに会いたいわね。
休暇中には会えなかったもの・・・
ルビーアの母親である侍女長がジル兄様に嫁ぐ私の侍女になるために毎日頑張っているって教えてくれた。
ハリソンは・・・彼は今も女の子たちに追いかけられて喜んでいるかしら?
『俺ってさぁモテてモテてモテ過ぎちゃって困ってるんだよね~』
初対面の時からこんな調子だったんだよね。
『へぇ~そうなんだ。よかったね』
『それだけ?ユティフローラちゃん俺を見て何も感じないの?』
感じるわけないじゃん!
『私にはジル兄様がいるからね。それにレグルス兄様もいるし、2人と比べたらハリソンなんてまだまだだよ』
そう言えばハリソンには最初から素の自分を見せていたような気がする。
『あの2人と比べたら誰だって敵うわけないだろ!その2人を除いたら俺っていい男だろ?』
自分でそんなことを言うハリソンに呆れながらも、何度も会ううちに本当は真面目な人なんだと分かってきた。
ハリソンは何もしなくても令嬢に囲まれるから、無難に笑ってスルーしているだけだとジル兄様が言っていた。
甘い顔立ちだから男の人には舐められることも多いけれど、ハリソンは武術の天才だとジル兄様が教えてくれた。
意外だと思ったけれど、実際に鍛錬しているハリソンの真剣な表情を見てしまえば、女の子にモテるのも頷けた。
あのギャップは反則だよ。
そんなハリソンがこの学園に留学してきているなんて誰も教えてくれなかった。
だって、私が知ったのは令嬢たちの噂話からだったもの。




