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デビュタントでは白いドレスを着ることになっているが、ドレスのリボンや刺繍の色には決まりがなく、婚約者のいる方ならば相手の色を使ったり、婚約者がいなければ家族の色を使う事が多い。
そういう私はお父様とお兄様の髪の色の濃紺をドレスの刺繍に使い、腰周りのリボンも濃紺だ。
ネックレスとイヤリングはお父様の瞳の色のブルーサファイア。
玄関ホールで私の支度を待っていた、お父様とお兄様には絶賛されたが、これは侍女達の技術が優れているからだ。
「私がエスコートしたかったのに・・・」
馬車に乗り込もうとしたら、まだお兄様は拗ねているようでお父様にブツブツ文句を言っていた。
「お前がチェスで負けるのが悪いのだろう?エスコートの権利が欲しければ次は頑張りなさい。ユティのエスコートが叶わないままジルグレート皇子のところに嫁いでしまうぞ」
まあ!お父様ったら意地悪ね。
「それはダメだ!ユティ大丈夫だぞ。次は兄様が必ず勝つからね」
「頑張ってくださいね。お兄様」
お兄様と使用人達に見送られて、デビュタントが開かれる王宮に向かった。
「王族への挨拶とファーストダンスが終われば帰宅も許されているからね。疲れたら我慢せずに言いなさい」
「はい!でもお父様と踊るのは楽しみなんです!」
「ユティがいい子に育ってくれて嬉しい」
もう大袈裟なんだから。
程なく王宮に到着したようで馬車が止まった。
お父様が先に降りて手を差し出してくれた。
お父様に連れられて向かった先は控え室のようで、呼ばれるまではここで待機するようだ。
暫くすると係の人が声をかけてくれた。
「さあユティ準備はいいかい?」
「はい」
大きな扉の前で「ロイド・ラグーナ侯爵、ユティフローラ・ラグーナ侯爵令嬢のご入場」
ホールに一歩踏み込めば天井には大小のシャンデリアが眩しく、着飾った沢山の方に白いドレスの令嬢に一斉に注目された気がしたが、その視線がお父様に向けられたものだと気付いた。
お父様世代の夫人だけでなく、若い令嬢の方までがお父様を見て頬を染めているからだ。
確かにお父様って娘の私から見ても素敵なんだよね。
実年齢よりも若く見えるし、背も高くて引き締まった体つきだし無駄な脂肪なんて付いてなくスタイルもいいの。
それに甘いお顔もいい!
自慢のお父様よ!
次々にお父様に挨拶にくる方たちに私も丁寧な挨拶を返していると騒がしかったホールが急に静まり返ると皆が揃って礼をとる。
王族の入場だ。
王族の方たちが席に着くとデビュタントを迎えた高位貴族から挨拶のために並び始めた。
今年の成人を迎えるのは4つある公爵家の内、今年はマキュリー公爵家のリアと、オーラント公爵家のエドだけみたいで、次はラグーナ侯爵家の私の番だった。
陛下と王妃様に挨拶をすると、2人とも私を見て目を見開いた。
王妃様の口が『ミルティーア様』と動いたと思ったら口元を扇子で隠してしまわれた。
私を見つめる王妃様の目は若干潤んでいるように見えた。
お父様とその場を後にしてリアとエドと合流したら、マキュリー公爵夫妻と、オーラント公爵夫妻もいた。
「リアすごく似合っているわよ」
「それを言うならユティもよ」
2人で笑い合っていると「はあ」と溜め息が聞こえた。エドだ。
「帰りたい・・・リア、ファーストダンスを踊ったら帰らないか?」
どうしたの?リアに目で質問すると、リアが顎でさした方向を見るとこちらを睨む令嬢が・・・
「あの方がブリジック嬢よ」
でもブリジック嬢のその後ろにも色とりどりのドレスで着飾った令嬢たちの集団がこちらを見てヒソヒソと話しているようだ。
雰囲気的にいい話をしてるとは思えない様子に不安になってきた。
「さあユティ、ファーストダンスだ。お手をどうぞレディー?」
いつもダンスの練習に付き合ってくれていたお父様とのダンスはとても楽しくて一曲が終わるのもあっという間だった。
その後はパートナーを変えてエドとも踊り、リアは真っ赤な顔でお父様と踊っていた。
いつの間にか彼女たちの存在を忘れていた。
そして、次の日から私の周りでおかしな事が起こり始めたのだ。




