9話 共に戦うということ
「ど、どうですか……?」
「ふふん、似合うでしょ!」
ユナは、ちょっと自信なさそうに尋ねてきて。
アズは、自信たっぷりに胸を張る。
そんな二人は、見違えるように綺麗になっていた。
ユナは、ふわりと広がるスカートをメインにしたコーデだ。
基本、いずれも性能の高い防具のはずなのだけど、ユナが着ると、一流デザイナーが作り上げた最新の衣服に見えるから不思議だ。
それくらい似合っていて、素直に可愛いと思う。
アズは、ショートパンツとラフなシャツでまとめている。
機能性重視で、動きやすさを優先したのだろう。
彼女らしいのだけど、これはこれでよく似合っていた。
可愛いというよりは、モデルのように綺麗な感じだ。
「馬子にも衣装って感じだな」
「もう、ちょっとは素直に褒めなさいよ! でも……ありがと」
「あ、ありがとうございます……えへへ、嬉しいです」
笑顔の花が咲いた。
「よし、これで問題解決だ。街へ戻って、ギルドで二人の登録をするぞ」
「「はい!!」」
広げた荷物を回収して、森を出る。
そのまま街道を進んで……
「止まれ」
「どうしたんですか、急に足を止めて?」
「なに? やっぱり、あたし達が欲しくなった?」
「そ、そうなんですか? 私はそれはそれで問題ないんですけど、できれば初めては屋内が……あと、優しくしてくれると嬉しいです。まずはキスからで……」
「……ユナって、けっこうむっつりよね」
「えぇ!?」
「なんの話だ、なんの。真面目な話だ……魔物が近くにいる」
「「……っ……」」
二人の顔が強張る。
エルフは身体能力が高く、基礎魔力も高い。
戦闘のスペシャリストではあるが、ユナもアズもまだ若い。
戦闘経験もないようだから緊張しているみたいだ。
「大したことねえ相手だ。最低ランクのゴブリンで、数は……十二匹だな。少し多いが、ま、冷静に対処すれば問題ねえよ」
「……え?」
「ちょ、ちょっと……なんで、敵の種類と数を把握しているわけ? あたしが見逃しているだけで、もう見えるところにいるの?」
「いや。百メートルくらい離れているところにいて、おまけに物陰に隠れているから、目視は厳しいな」
「なら、なんでわかるのよ?」
「気配を感じたんだよ」
「百メートル先で身を潜めている相手の気配を……ですか? そんなことができる人、エルフでも聞いたことが……」
「……なんで、そんな無茶苦茶な探知が可能なのよ?」
「もちろん、治癒師だからだ」
治癒師たるもの、常に仲間の身の安全に気を配らなければいけない。
平時だけではなくて、戦闘中も同じだ。
探知し損ねて、怪我をする機会を増やしてしまうなんてもっての他。
だからこそ、敵の探知も可能だ。
という説明をしたら……
「えっと……すみません。それ、おかしいと思うんですけど……」
「治癒師は治療をすればいいのであって、敵の探知をして未来的な怪我の予防までするとか、そんな役割までは求められていないわよ!?」
「俺は求められていたぞ」
「ブラック! めっちゃブラック! あと、なんだかんだ、それに応えられるのもおかしいわ!」
「探知は、普通、スカウトの仕事ですからね……いえ、まあ。お姉ちゃんの言う通り、治癒師の仕事だからと押しつけられて、こなせてしまうのもおかしいですが……セイルさん、本当に治癒師ですか?」
おかしいな?
クライブのパーティーにいた時は、全て俺の担当だったのだが……
「っと……五十メートルまで近づいてきているな。そろそろ目視できる範囲に来るぞ」
「あ、本当です」
「確かに、ゴブリンが十二匹……怖いくらいに正確な探知ね。あの距離で数と種類を特定するとか、一流のスカウトでも無理よ」
「熟練のエルフでも無理ですね……セイルさん、さすがです」
言いつつ、二人はいつでも動けるように構えた。
「ユナとアズは、戦うとしたらどんなスタイルだ?」
「私は、魔法の方が得意です。初級だけど、いくつか使えます」
「あたしは近接戦ね。格闘術をちょっと学んでいたわ」
「よし、上出来だ。俺が十匹担当するから、二人は一匹ずつやれ。実戦経験はねえな? まず、一匹を相手にして、練習と考えてボコれ」
「「えっ」」
なぜか二人が驚いた。
「なんだ? 二人で一匹の方がいいか?」
「いえ、そうではなくて……」
「一人で十匹も担当するとか、正気? 相手はゴブリンだけど、油断は命取りに繋がるわよ。というか、治癒師なんでしょ? 戦闘経験なんて……そういえばあったみたいね」
奴隷商人から解放された時のことを思い出したらしく、アズは複雑な顔になった。
「っていうか、なんで治癒師なのに戦えるわけ?」
「外で治療をする時もあるからな。そういう時、魔物は邪魔くせえだろ? 治療の妨げにしかならないゴミだ。だから、治療の邪魔をする魔物の排除も治癒師の仕事の内だ」
「「絶対違うと思う」」
揃って否定されてしまう。
なぜだ……?
もしかして、俺の常識がおかしいのだろうか。
「っと……来るぞ」
三十メートルほどの距離になったところで、ゴブリン達が一斉に突撃してきた。
相手は最低ランクなので知能が低く、連携をとるとか、そういう策を立てることはできない。
突撃あるのみだ。
とはいえ、数の暴力は脅威だから、気をつけないとな。
「ユナ、アズ、遅れを取るんじゃねえぞ」
「は、はい! がんばります!」
「あたしの力、見せてあげるわ!」
――――――――――
「ん」
初の実戦。
そう考えると、ユナは体が震えてしまう。
しかし、怯えていられない。
セイルと一緒に冒険者になると決めたのだ。
ここで役に立つことをアピールして、褒めてもらいたい。
そして、できれば一夜を共に……
「がんばります!」
ユナは気合を入れて、自分に向かってくるゴブリンを見据えた。
「あれ?」
そこで違和感に気づく。
アズのところにも一匹、ゴブリンが向かっていた。
他は全てセイルに殺到している。
宣言通りに、セイルが十匹を担当しているのだけど……
なぜ、その十匹はセイルだけを狙っているのだろうか?
ユナとアズの方が弱く見えるから、いくらゴブリンでも、そちらを狙うはずなのに。
「……ユナも気づいた?」
少し離れたところに位置するアズが、そう問いかけてきた。
「セイルって、適当に戦っているように見えて、この戦場を完全にコントロールしているわ。十匹のヘイトを自分に集めて、一匹ずつあたし達に割り振っている。それでいて、あたし達を含めて全体を常に見てて、逐一、適切な動きを取ることで戦場を支配しているのよ」
「そんな無茶苦茶な。ゴブリンが相手だとしても、そのようなことができる人なんて、エルフを含めて見たことがないよ。タンクと戦術士をまとめたような戦いだね」
「ほんと、聞いたことがないわ……無茶苦茶すぎる。セイルの戦い方を見たら、一流の戦術士やタンクが揃って弟子入り志願するでしょうね。けど……」
アズがニヤリと不敵に笑う。
「あたし達、あの人についていかないといけないのよね?」
「すごく大変そうだね……」
「でも、やりがいはあるわね」
「うん!」
ユナとアズの闘志に火が点いた。
そして、双子の姉妹は、それぞれゴブリンを迎え撃つ。
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