表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

9話 共に戦うということ

「ど、どうですか……?」

「ふふん、似合うでしょ!」


 ユナは、ちょっと自信なさそうに尋ねてきて。

 アズは、自信たっぷりに胸を張る。


 そんな二人は、見違えるように綺麗になっていた。


 ユナは、ふわりと広がるスカートをメインにしたコーデだ。

 基本、いずれも性能の高い防具のはずなのだけど、ユナが着ると、一流デザイナーが作り上げた最新の衣服に見えるから不思議だ。

 それくらい似合っていて、素直に可愛いと思う。


 アズは、ショートパンツとラフなシャツでまとめている。

 機能性重視で、動きやすさを優先したのだろう。

 彼女らしいのだけど、これはこれでよく似合っていた。

 可愛いというよりは、モデルのように綺麗な感じだ。


「馬子にも衣装って感じだな」

「もう、ちょっとは素直に褒めなさいよ! でも……ありがと」

「あ、ありがとうございます……えへへ、嬉しいです」


 笑顔の花が咲いた。


「よし、これで問題解決だ。街へ戻って、ギルドで二人の登録をするぞ」

「「はい!!」」


 広げた荷物を回収して、森を出る。

 そのまま街道を進んで……


「止まれ」

「どうしたんですか、急に足を止めて?」

「なに? やっぱり、あたし達が欲しくなった?」

「そ、そうなんですか? 私はそれはそれで問題ないんですけど、できれば初めては屋内が……あと、優しくしてくれると嬉しいです。まずはキスからで……」

「……ユナって、けっこうむっつりよね」

「えぇ!?」

「なんの話だ、なんの。真面目な話だ……魔物が近くにいる」

「「……っ……」」


 二人の顔が強張る。


 エルフは身体能力が高く、基礎魔力も高い。

 戦闘のスペシャリストではあるが、ユナもアズもまだ若い。

 戦闘経験もないようだから緊張しているみたいだ。


「大したことねえ相手だ。最低ランクのゴブリンで、数は……十二匹だな。少し多いが、ま、冷静に対処すれば問題ねえよ」

「……え?」

「ちょ、ちょっと……なんで、敵の種類と数を把握しているわけ? あたしが見逃しているだけで、もう見えるところにいるの?」

「いや。百メートルくらい離れているところにいて、おまけに物陰に隠れているから、目視は厳しいな」

「なら、なんでわかるのよ?」

「気配を感じたんだよ」

「百メートル先で身を潜めている相手の気配を……ですか? そんなことができる人、エルフでも聞いたことが……」

「……なんで、そんな無茶苦茶な探知が可能なのよ?」

「もちろん、治癒師だからだ」


 治癒師たるもの、常に仲間の身の安全に気を配らなければいけない。

 平時だけではなくて、戦闘中も同じだ。

 探知し損ねて、怪我をする機会を増やしてしまうなんてもっての他。

 だからこそ、敵の探知も可能だ。


 という説明をしたら……


「えっと……すみません。それ、おかしいと思うんですけど……」

「治癒師は治療をすればいいのであって、敵の探知をして未来的な怪我の予防までするとか、そんな役割までは求められていないわよ!?」

「俺は求められていたぞ」

「ブラック! めっちゃブラック! あと、なんだかんだ、それに応えられるのもおかしいわ!」

「探知は、普通、スカウトの仕事ですからね……いえ、まあ。お姉ちゃんの言う通り、治癒師の仕事だからと押しつけられて、こなせてしまうのもおかしいですが……セイルさん、本当に治癒師ですか?」


 おかしいな?

 クライブのパーティーにいた時は、全て俺の担当だったのだが……


「っと……五十メートルまで近づいてきているな。そろそろ目視できる範囲に来るぞ」

「あ、本当です」

「確かに、ゴブリンが十二匹……怖いくらいに正確な探知ね。あの距離で数と種類を特定するとか、一流のスカウトでも無理よ」

「熟練のエルフでも無理ですね……セイルさん、さすがです」


 言いつつ、二人はいつでも動けるように構えた。


「ユナとアズは、戦うとしたらどんなスタイルだ?」

「私は、魔法の方が得意です。初級だけど、いくつか使えます」

「あたしは近接戦ね。格闘術をちょっと学んでいたわ」

「よし、上出来だ。俺が十匹担当するから、二人は一匹ずつやれ。実戦経験はねえな? まず、一匹を相手にして、練習と考えてボコれ」

「「えっ」」


 なぜか二人が驚いた。


「なんだ? 二人で一匹の方がいいか?」

「いえ、そうではなくて……」

「一人で十匹も担当するとか、正気? 相手はゴブリンだけど、油断は命取りに繋がるわよ。というか、治癒師なんでしょ? 戦闘経験なんて……そういえばあったみたいね」


 奴隷商人から解放された時のことを思い出したらしく、アズは複雑な顔になった。


「っていうか、なんで治癒師なのに戦えるわけ?」

「外で治療をする時もあるからな。そういう時、魔物は邪魔くせえだろ? 治療の妨げにしかならないゴミだ。だから、治療の邪魔をする魔物の排除も治癒師の仕事の内だ」

「「絶対違うと思う」」


 揃って否定されてしまう。

 なぜだ……?


 もしかして、俺の常識がおかしいのだろうか。


「っと……来るぞ」


 三十メートルほどの距離になったところで、ゴブリン達が一斉に突撃してきた。

 相手は最低ランクなので知能が低く、連携をとるとか、そういう策を立てることはできない。

 突撃あるのみだ。


 とはいえ、数の暴力は脅威だから、気をつけないとな。


「ユナ、アズ、遅れを取るんじゃねえぞ」

「は、はい! がんばります!」

「あたしの力、見せてあげるわ!」




――――――――――




「ん」


 初の実戦。

 そう考えると、ユナは体が震えてしまう。


 しかし、怯えていられない。

 セイルと一緒に冒険者になると決めたのだ。

 ここで役に立つことをアピールして、褒めてもらいたい。

 そして、できれば一夜を共に……


「がんばります!」


 ユナは気合を入れて、自分に向かってくるゴブリンを見据えた。


「あれ?」


 そこで違和感に気づく。

 アズのところにも一匹、ゴブリンが向かっていた。

 他は全てセイルに殺到している。


 宣言通りに、セイルが十匹を担当しているのだけど……

 なぜ、その十匹はセイルだけを狙っているのだろうか?

 ユナとアズの方が弱く見えるから、いくらゴブリンでも、そちらを狙うはずなのに。


「……ユナも気づいた?」


 少し離れたところに位置するアズが、そう問いかけてきた。


「セイルって、適当に戦っているように見えて、この戦場を完全にコントロールしているわ。十匹のヘイトを自分に集めて、一匹ずつあたし達に割り振っている。それでいて、あたし達を含めて全体を常に見てて、逐一、適切な動きを取ることで戦場を支配しているのよ」

「そんな無茶苦茶な。ゴブリンが相手だとしても、そのようなことができる人なんて、エルフを含めて見たことがないよ。タンクと戦術士をまとめたような戦いだね」

「ほんと、聞いたことがないわ……無茶苦茶すぎる。セイルの戦い方を見たら、一流の戦術士やタンクが揃って弟子入り志願するでしょうね。けど……」


 アズがニヤリと不敵に笑う。


「あたし達、あの人についていかないといけないのよね?」

「すごく大変そうだね……」

「でも、やりがいはあるわね」

「うん!」


 ユナとアズの闘志に火が点いた。

 そして、双子の姉妹は、それぞれゴブリンを迎え撃つ。

本日も読んでくださり、ありがとうございます!

「この先どうなるんだろう……?」と少しでも気になったら、ブクマや評価で応援いただけたら、とても嬉しいです!


明日から、20時に1話、毎日一回の更新になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 結局、セイルは”超有能”ということが裏付けされた回でしたね(笑)  まぁ、なんだかんだ言ってもクライブたちが彼を追放したのは、彼を頼りにしつつも”プライド”や”劣等感”からそれを認めることできなか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ