表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/34

8話 崩壊は緩やかに、しかし確実に

「チェルシー、そっちに行ったぞ!」


 とある戦場で、クライブの大きな声が響いた。


「えっ、ちょ!? まってまって、あたし、今詠唱中で……って、今ので魔力が散っちゃったじゃん!」

「ティト、チェルシーの援護を!」

「無茶言わないでくれ! 見ての通り、僕は今、三匹を相手にしているんだ!」

「ああもうっ! なら、私がやるしかないじゃない。スカウトなのに!」


 ルルカは文句を言いつつ、両手に持つ短剣で、チェルシーに迫る魔物の首を切り裂いた。


「チェルシー、早くしろ!」

「う、うん!」


 その間にチェルシーは再び詠唱をして、ティトに群がる魔物を蹴散らそうとするが……


「フレアストーム!」

「うわっ!?」


 炎の嵐が吹き荒れて、魔物が炭と化す。

 ただ、ティトも巻き込まれそうになっていた。

 際どいタイミングで回避したものの、危うく魔物と同じ運命を辿るところだ。


「おいっ、なにをしているんだよ!? まだ僕がいただろう!?」

「だって、今のはクライブが……」

「そもそも、もっと早く詠唱してくれればよかったんだ!」

「そ、そう言われても、ティトが焦らせるようなことを言うから……」

「言い争いをしている場合じゃない、次が来るぞ! 集中しろ!」


 クライブの強い声に、二人は渋々言い争いを止めた。

 それぞれ戦闘に集中する。


 そして……




――――――――――




「くそっ、なんでこんなことに!」


 魔物の住処となっていた洞窟を制圧して、野営地に戻り……

 クライブは地面を強く殴りつけた。


「いつもと同じような任務なのに、どうして、こうもうまくいかない!?」

「ねえ、クライブ。みんな、そこそこ怪我をしているよ。治療をしてくれないかな?」

「……俺の魔力は無限にあるわけじゃないぞ」

「でも、回復魔法が使えるのはクライブだけじゃないか」

「ちっ……仕方ないな。エリア・フルヒール!」


 ルルカ達は淡い光に包まれた。

 時間を逆に戻したかのように、それぞれが負っていた傷が消えていく。


「ほら、これでいいだろ?」

「えっと……え、これで終わりかい?」

「なんだ、ティト。ちゃんと怪我は治したのに、不満なのか?」

「いや、しかしね……だるさとか使っちゃった魔力とか、そのままなんだけど」

「は? そんなもの、回復魔法で治せるわけがないだろう。常識でものを言え」

「いや、今までは治せていただろう? セイルの時は、体力も魔力も、全部回復してくれていた。セイルならできたのに」

「……っ……」


 セイルと聞いて、クライブは顔を大きく歪めた。

 ただ、それは一瞬で、すぐに平静を装う。


「……怪我が治ったのなら、それでいいだろう。魔物は討伐した。今日はもう、休むだけだ」

「まあ、そうだけどさ……」

「その前に、反省会をしない?」


 チェルシーが、そう提案した。


「今日は、けっこう危ない戦いだったと思うんだよねー。なんで、こんなことになったのか? 油断はなかったか? きちんと原因を考えたおいた方がいいと思うんだけど」

「……原因ならハッキリしているだろう?」


 ティトがルルカを睨みつけた。


「キミのせいだよ、ルルカ」

「えっ、ちょ……なんで私のせいになるわけ!?」

「当然だろう? 会敵するまで魔物に気づかない。罠もいくらか見逃していた。このせいで戦闘前に被害が出ていた……全部ルルカのせいだよね?」

「待って。それ、全部私のせいにされるのは心外よ。まず、あの洞窟は複雑な作りになっていて、視界が効かないの。気配で探知しようにも、小動物もたくさん混じっていたから、魔物だけを探知することは無理なのよ。罠も同様の理由で全て発見することは難しいわ」

「セイルは、僕が今言ったこと、全部こなしていたのに?」

「そ、それは……」

「本業じゃない治癒師にできたんだ。本業のスカウトにできない道理はないよね」

「……」


 反論できず、ルルカは押し黙ってしまう。


 すると、思わぬところから反撃が飛ぶ。

 チェルシーだ。


「ってかさー、ティトもダメくない?」

「なっ……ぼ、僕のなにがダメだっていうんだ!?」

「ヘイト管理、ぜんぜんできてなかったじゃん。クライブはともかく、あたしのところまで魔物が襲ってきたんだけど? そうなる前に敵を止めるのが、タンクのティトの役割じゃん」

「ま、魔物の数が多すぎる! あれじゃあ、いくらなんでもヘイトは取り切れない!」

「前に同じようなことになった時、セイルが代わりに全部ヘイトとっていたけど、あれは?」

「うぐ……」


 今度はティトが押し黙る。


「……そう言うチェルシーも反省点があるだろう?」

「へ?」

「ティトを魔法に巻き込みかけた。後衛としては、あってはならないことだ」

「それは、まあ……ごめん。でも、いつもあのタイミングで放っていたし。セイルなら、問題なく動いていたし。ってか……そもそもの原因はクライブじゃない?」

「なっ!? 俺に責任転嫁をしようというのか!?」

「だって、そうじゃん。指揮がめちゃくちゃで、敵の動きにまったく対応できてなかったじゃん。やることなすこと後手後手で、どんどん不利になるような命令ばかりされて……だから、あんなに苦戦したんじゃん」

「そ、そのようなことはない! 俺の指揮は問題なかった。指揮通りに迅速に動くことができないお前達に問題がある!」

「いや、無茶言わないでよ。秒で魔法を発動させろとか、そんな無理難題だし」

「私も……スカウトなのに、最前線で戦えとか言われたし。斥候と全体のフォローが私のメインなのに」

「僕も、全体の攻撃をカバーしろ、って言われたね。いや、どう考えても無茶だよね? だって僕は一人しかいないんだから、敵の全部をカバーするなんて、できるわけないよ」

「セイルはできていただろう!」


 怒鳴り……

 そして、自身の失言に気づいて、口を閉ざす。


 結局のところ……

 パーティーメンバーの全員がセイルに頼っていた。

 セイルありきの戦いをしていた。


「……セイルがいたら、全部、今日の問題、解決していたんじゃないか?」


 ティトが小さく言う。


 しかし、肝心のセイルはすでにいない。

 自分達が追放したのだ。


「「「……」」」


 一同が暗い表情に。

 もしかしたら自分達は、とんでもないミスを犯したのでは?


「……よし、現状は理解した」


 クライブは話をまとめるように言う。


「ひとまず、各々に問題があることが発覚した……俺も含めて、だ」

「どうするの?」

「それは……」


 チェルシーの問いかけに、クライブは押し黙る。


「あのさ……やっぱり、私達にセイルは必要だと思うんだ」


 チェルシーが真面目な顔で言う。

 今なら耳を傾けてくれるかもしれないと、希望を込めて言う。


「みんなはセイルはダメダメって言ってたけど、私は、そんなことはないと思う。セイルって、治癒師なのに本当に色々なことをしてて、だからこそ、私達はうまく戦うことができていたんだよ。だから、私は追放には反対だったの」

「……なら、どうしろと?」

「セイルに戻ってきてもらおう?」

「……」

「みんなで一緒に謝ろうよ。それで、また一からがんばろう? セイルがいないと、私達は……」

「それだけはない」


 そう断言するクライブは、憎しみすら抱いているようだった。


「あのセイルにできていたことだ、俺達にできないはずがない」

「で、でも……!」

「今不調なのは、一人抜けたことで、各々の戦闘の感覚がズレているせいだ。パーティーの連携の調整に専念しつつ、今の状態に慣れること。そうすれば、また、元通りに戦うことができるはずだ」

「……本当にそう思うの?」

「もちろんだ。チェルシーが、どうしても不安だというのなら、追加のパーティーメンバーも考えよう。ただし、それはセイルじゃない」

「どうして、そこまで……ううん、なんでもないよ」


 説得を諦めた様子で、チェルシーは俯いてしまう。


「今後の方針は、このようなところだな。ティトとルルカはどう思う?」

「僕も、それでいいよ」

「私も」

「なら、反省会はこれで終わりだ。明日に備えて、そろそろ寝るぞ」


 そう、クライブは話をまとめて、自分のテントに戻る。

 ティトとルルカもテントに戻る。


「……」


 一人残ったチェルシーは、空を見上げて、


「……やっぱり、セイルがいないと寂しいよ。ううん、寂しいだけじゃなくて、パーティーがちゃんと機能していないよ。私、どうしたらいいのかな……?」

元仲間の影が、じわじわと忍び寄ってきました。

ざまぁは、突然ではなく――ゆっくり、確実に始まります。

「どう崩れていくのか、気になる…!」と思っていただけたら、

ぜひ ブクマや評価で、主人公の拳を応援してください!


次回(9話)は、本日20時に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
( 'ω')クッ!...主人公の話を読みたいって気持ちもあるけどそれ以上に早くざまぁされるところも読みたいというジレンマ
主人公は戻らんと言っているのに何でチェルシーとかいう阿呆は勝手に戻ってくるとかいう願望願ってんのか?まあチェルシーもざまぁされますな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ