77話 裏取り引き
「ここにお連れできないのは残念ですが、どれも素敵な商品ですよ。こちらがその一覧となります」
「ふむ、拝見させてもらおうか」
最初の声は……おそらく、あの老人のものだろう。
まだ若々しさはあるものの、老人特有の訛りを感じられた。
もう一人は中年の男。
やや声が低いのは……太り、体脂肪で喉が少し塞がれているからか?
俺の見立てが正しいのなら、師匠に聞いた特徴と一致するな。
領主……グルーネル・ホルトエールかもしれない。
とはいえ、すぐに断定はできないし、連中の考えていることも不明。
もうしばらく様子を見るか。
「「……」」
ユナとアズを見ると、こっちは大丈夫、という感じで頷いた。
よし、続けよう。
「……うむ、確かに素晴らしいな。どれもいい値で売れそうだ。良い仕事をしてくれて感謝する」
「恐縮です」
「しかし……いずれも入荷予定、となっているが、それはどういうことだ?」
「グルーネル様もご存知でしょう?」
「……確か、最近は妙な商売を始めたらしいな」
「ええ。それが思いの外繁盛していまして……」
「ふん。物珍しさの一過性のものだろう」
「そうであればいいのですが、私の見立てでは、そうならない可能性の方が高く……」
「ふむ」
「そのせいで、あの施設の価値をなくして、商品を仕入れることが難しくなっている状態です」
「ちっ……聖女め、忌々しいことをしてくれる」
「他所から、ということももちろん可能ですが、時間がかかってしまいまして……やはり、現地調達が一番かと」
「わかっている。だからこそ、最初は施設の運営に手を貸したのだ。いい釣り場になるだろうと思ってのことだった。私に完全な依存をさせた後、手を離して、他に頼るところがないと思わせる……くそ、計画がめちゃくちゃだ」
「まだ修正は可能でしょう」
「当たり前だ。ここまで苦労したのに、諦めてたまるか。そのためにお前を呼んだ。策はあるな?」
「ええ、もちろんですとも」
「聞かせてくれ」
「今回の問題は、結局のところ聖女が……おや?」
「どうした?」
「……どうやらネズミが紛れ込んでいるようですな」
老人の声の質が変わる。
向こうは建物の中で、俺達は建物の外。
しかもそれなりの距離が離れているはずなのに、確かな敵意が飛んできた。
「ちっ、気づかれたか」
「「えっ!?」」
「逃げるぞ!」
「「ひゃん!?」」
ユナとアズをそれぞれ左右に抱えた。
足元に魔力を込めて、全力で跳躍。
竜巻に吹き飛ばされたかのように空を高速で跳んで……
そのまま街外れの平原に着地した。
即座に体勢を整えた。
いつでも動けるように足に力を込めつつ、周囲の様子、気配を探る。
「……追手はいないか」
追撃者はいないようだ。
安心して……
「「きゅぅ……」」
「しまった」
ユナとアズが目を回して気絶していることに気づいた。
――――――――――
「セイルさんの探知に気づくほどの実力者がいて、気づかれたから逃げる、っていうのはわかるんですけど……」
「いくらなんでも方法が強引すぎやしないかしら?」
「いや、まあ……すまん」
膨れたユナとアズに睨まれて、俺は居心地の悪さを感じつつ素直に頭を下げた。
あの場から一刻も早く逃げないといけないことは確か。
ただ、焦りすぎて二人への配慮を忘れていたな。
正直すまん。
「でも……セイルさんがそこまで焦るほどの相手、っていうことですよね」
「けっこうやばい感じ?」
「そうだな……なんとも言えないが、今までこの方法でバレたことはない。それなりの実力者であることは間違いないだろうな」
「……その人は敵なんですか?」
「たぶんな」
できれば面倒な相手は避けたいところだが……
今回はそれは無理そうだ。
やれやれ。
師匠に会いにきただけのつもりなのに、気がつけば面倒事に巻き込まれている。
ため息が自然とこぼれた。
書籍1巻発売中、コミカライズ企画進行中!
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