75話 悪の臭い
ユナの鑑定。
それはものだけではなくて、ありとあらゆるものの状態を知ることができる。
その鑑定を使用した結果、通りを歩く老人はなにも異常のないまったくの健康状態ということが判明した。
体力が衰えてまともに歩けない、なんていう可能性もない。
「元気なはずなのに、わざわざ杖を使ってゆっくりと歩くおじいちゃん……確かに怪しいわね」
「どうしようか? 一応、セイルさんに報告した方がいいかな?」
「ああ、詳しく聞かせてくれ」
――――――――――
ユナとアズがなにかしら異変を見つけたらしく、二人に声をかけた。
話を聞かれていたとは思っていなかったらしく、ユナとアズは小さな悲鳴をあげて飛び上がる。
「そこまで驚くことか?」
「だ、だって、セイルさん、屋敷の方をすごくじっと見つめていたから……」
「あたし達のこと、なにも気にしていないと思っていたわ」
「そんなことするわけないだろう? 治癒師にとって、マルチタスクは必須だ」
いつも治癒院で活動できるわけじゃない。
俺のような冒険者は野外の活動も多く、治療をしつつ、周囲に魔物が近づいていないか確認しなくてはいけない。
それに、治療に関してもそうだ。
たとえば風邪の患者を診たとしよう。
風邪に関する診断しかせず、他のことをまったく気にしない。
その場合、風邪に隠れている病を見逃してしまう可能性もある。
治療をしつつ、それだけではないか他の可能性も探る。
さらに、同時に病の防止なども考える必要がある。
もちろん、全てを完璧にこなすのは厳しいが……
治癒師にとって、ある程度はマルチタスクは必須だ。
「うーん……わりと納得できる話ですけど」
「ただ、セイルが言うと、いつものトンデモっていう可能性が出てくるのよね。すぐに信じることができないわ」
「ということで、セイルさんは、もう少し日頃から常識っぽい行動を心がけてくださいね」
なぜ、俺が説教をされる……?
「で、なにを見つけたんだ?」
「実は……」
――――――――――
「なるほど……あのじいさんか」
ユナとアズが言うように、確かに違和感のあるじいさんだ。
「杖をついているが、足も腰も悪くしてねえな。たぶん、なにかしら傷や障害を持っている可能性も低いだろう」
「あれ、そこまでわかるんですか?」
「治癒師だからな。見れば、その人の骨格や体格、動き方でだいたいわかる」
「……お姉ちゃん、そうなの?」
「あたしに聞かないでよ」
こういう説明をすると、どうも話が逸れてしまうようだ。
とはいえ、説明しないと二人は納得してくれず……
……色々と難しいな。
「セイルさん、どうしますか?」
「締め上げる?」
「お姉ちゃん、なんでいきなり乱暴な手を考えるの……?」
「……セイルに影響されているのかしら?」
「俺のせいにするな」
ため息一つ。
「今のところ他に手がかりがない。後をつけてみよう」
「はい、わかりました!」
「まかせてちょうだい!」
やる気たっぷりの二人にどことなく不安なものを感じつつ、俺達はじいさんの後をつけた。
じいさんは通りをゆっくりと歩いていく。
そのまま道なりに進むのなら領主の屋敷が目的地だろう。
違和感を抱えていて。
問題があると考える領主のところへ向かう。
果たして、これは偶然か?
最低、一週間は監視をするつもりでいたが、もしかしたらいきなり当たりを引いたかもしれないな。
ある程度離れたところからじいさんの後をつけていく。
距離は50メートルほど。
やや離れているが、俺の目はいい方だ。
ユナとアズは俺ほどはないらしいが、それでもエルフなので目はいい。
問題なく尾行は続いている。
じいさんに気づかれた様子はなく……
そのまま、じいさんが領主の屋敷に入るところを見届けた。
「あのおじいちゃん、本当に領主の屋敷に入っていったわね……」
「勘ですけど、なにか怪しい感じがしますね。セイルさん、どうしますか?」
「あたしは、あのおじいさんを中心にしっかりと調べた方がいいと思うわ」
「……そうだな」
ユナとアズに賛成だ。
俺も、あのじいさんに『なにか』を感じる。
「俺達も敷地内に入るぞ」
「「らじゃー!」」
◇ お知らせ ◇
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