72話 嫌な予感という名の懸念
「……ありがとうございます」
「あん?」
ふと、師匠が頭を下げてきた。
おい、やめろ。
師匠が頭を下げるとか、怖すぎてマジで震えるだろ。
明日は槍が降ってくるか?
……なんてことを思うが。
それは口に出さない。
慣れないことをするくらい、師匠にとって子供達は大事なのだろう。
なにも気兼ねしない俺が相手でもお礼を言わずにはいられないほど、今回のことを良く思っているのだろう。
「言っとくが、まだうまくいったわけじゃねえからな? むしろ、ここからが本番だ」
「ええ、わかっています。必ず軌道に乗せてみせますが……」
歯切れの悪い言い方だな?
「なにか気になることでもあるのか?」
「そうですね……ここまで協力してくれたのですから、あなたには話さないといけないでしょうね」
師匠の顔が真面目なものに……いや。
やや怒りを含んだ、鋭いものに変わる。
「一つ、懸念があります」
「……聞かせてくれ」
「この街の領主がどう動くか、そこが気になるところですね」
師匠曰く……
領主は施設のことを快く思っていないらしい。
孤児は汚い。
そのような存在が自分の街にいるなんて不愉快だ。
師匠の名声もあり、最初は渋々と支援金を出していたらしいが……
適当な理由をつけて打ち切り。
それだけではなくて、施設の運営が立ち行かなくなるような法整備を進めているとか。
「……よし、殴ってくるか」
「やめなさい」
「冗談だ」
胸糞悪い話だが、さすがに殴るのがまずい。
それで解決するのならいくらでも殴るのだが……
暴力を振るった。
やはり施設は野蛮なところであり取り潰すしかない……そんな感じで、相手に付け入る隙を与えてしまうだろう。
「ちっ……バカが権力を持つと鬱陶しいことこの上ないな」
「なかなか辛辣ですね」
「当たり前だろ。ガキに投資をしねえとか、ここの領主は頭空っぽなのか」
子供が街の発展に影響を及ぼすことはほとんどない。
子供の仕事は学び、成長することだからだ。
ただ、それをないがしろにしたらどうなるか?
将来、まともな人材が揃わなくなってしまう。
きちんと学ぶことができず、きちんと育つことができなかった者ばかり。
そんな者で街がいっぱいになれば終わりだ。
そんなことにならないように、教育にはしっかりと力を注がなければならないのだが……
ここの領主は、そんな単純なことがわからないほどバカのようだ。
「……やっぱり殴りてえな」
「やめなさい」
「半分冗談だ」
「半分は本気なのですね……まあ、気持ちはわかりますが」
師匠は俺以上の武闘派。
よくもまあ我慢していると思う。
まあ……それも全部、子供達のためか。
「ふむ」
施設については、まだしばらくは様子を見る必要がある。
ランダム要素はあるが、俺にできることはもうないと思っていたが……
「これだけじゃなくて、根本的な治療をする必要があるのかもしれねえな」
「……ほどほどにしてくださいよ?」
「さてな」
俺のことをよく知る師匠は、呆れたような苦笑をこぼすのだった。




