71話 施設を癒やす
「はひぃ……さすがに疲れたわ……」
「お姉ちゃんに同意……」
「アズちゃん、ユナちゃん、おつかれさま。はい、はちみつジュース。甘くて疲れが取れるよ」
営業を終えて。
女性用の更衣室。
着替える途中で休みを取るアズとユナに、チェルシーがはちみつジュースを渡した。
二人はそれを受け取り口をつけて、
「「おぉ!?」」
目をキラキラと輝かせる。
気に入ったらしく、ごくごくと一気に飲む。
「「おかわり!!」」
「だと思ったよ、ほい♪」
「「わーい♪」」
アズとユナは笑顔で二杯目を受け取った。
チェルシーも自分の分を飲む。
「それにしても……」
二杯目を半分ほど飲んだところで、アズが口を開く。
「なんであたし、こんなことしているのかしら?」
「施設のこと? 料理のこと?」
「アズちゃん、嫌なの?」
「ううん、そんなことないわ。子供達のためにやれることがある、っていうのは嬉しいもの。ただ、これで本当に大丈夫なのかな、って」
「大丈夫だよ」
ユナが間髪入れずに答えた。
「セイルさんがやることだもん。なら、きっとうまくいくよ」
「それもそっか」
納得してしまうアズだった。
セイルの色々と規格外の能力。
そして、なによりも圧倒的な信頼がそうさせていた。
「それにしても、食堂を作っちゃうなんて、すごいこと考えるわね」
「しかも、短期的じゃなくて長期的な計画……普通は思い浮かばないよ」
「それがセイルのすごいところで、セイルらしいところかな」
「どういうこと?」
「それはね……」
チェルシーは笑顔で言う。
「セイルにとっては、これも治癒の一貫なんだと思うな」
「え?」
「施設を立て直すことが……あっ」
「あぁ……そっか。そういう……なるほどね」
最初は戸惑いを見せるアズとユナだったけれど、少しして理解を示した。
「施設の環境は悪くて、栄養状態とかも悪い感じ」
「他にも困っていることがたくさんあって……」
「放っておいたら病人が出てしまう。だから……
「「「それを予防するために施設を改善する!」」」
三人の声がピタリと重なる。
互いの顔を見て。
誰かが吹き出して、大きな笑い声が響く。
考えていることは一緒。
そのことが楽しくて、嬉しくて。
しばらくの間、三人は笑顔を浮かべていたのだった。
――――――――――
「まさか、本当に食堂を開いてしまうなんて……」
「なんだよ、疑ってたのか?」
エヴァの私室で酒をもらう。
夜、女の部屋に男が訪ねるべきではないが……
俺と師匠の間に色気のある話なんて欠片もない。
「夢物語のような計画を聞かされて、それをそのまま信じるというのはなかなか」
「ひでえ言い方だな、おい」
「仕方ないでしょう? 自給自足のために食堂を開くなんて。しかも、将来的に子供達だけで運営するなんて……」
「手っ取り早く、それでいて確実に稼げるってなると飲食くらいなんだよ」
物を扱う商売は儲かるものの、軌道に乗せることが難しい。
需要と供給を正確に予測して。
取り引き相手に騙されないように、確かな度胸と目を鍛えて。
それでいて運も必要だ。
リターンは大きいがリスクも大きい。
他の商売も似たようなものだ。
そんな中、飲食はわりと堅実だ。
うまいものを提供する……それだけで、大体は成功する。
そこに聖女様の宣伝や子供の愛らしさを利用すれば、さらに成功率はあがる。
「……呆れました」
そう説明したら、師匠はため息をこぼした。
「ずる賢いというか狡猾というか……あなたらしいですね」
「お褒めの言葉、ありがとう」




