7話 全て捧げます……いらねえ!
「私をもらってくれませんか!?」
「ごほっ!?」
い、いきなりなにを言い出すんだ……?
「それは、どういう……?」
「そのままの意味です。私の体、心、魂……セイルさんに捧げたいです!」
「ごはっ!?」
ともすれば犯罪的な流れだ。
再び咳き込んでしまう。
「ふ、ふざけてんのか……?」
「エルフは、とても義理堅い種族なのよ」
アズが説明をしてくれる。
彼女は、まったく慌てていないけど……この流れは想定内だったのだろうか?
「受けたは恩は必ず返せ。受けた恩の大きさに応じて、それ相応の対価を払え、ってね」
「私達は命を助けてもらいました。ならば、この命はセイルさんのものです。だから、私達をもらってくれませんか?」
「んな深刻に考えんでも……というか、アズはそれでいいのかよ?」
「あたしは、まあ……あんたなら、いい……かな?」
少し頬を染めて。
指先で髪をいじりつつ、明後日の方向を見つつ言う。
一方のユナは、とても真剣な顔だ。
ただ、照れは感じているらしく、こちらもやや頬が赤い。
「わ、私、なんでもしますから……! セイルさんの役に立てるように、がんばります! よ、夜の経験はないですけど、べ、勉強しますから! がんばって喜んでもらえるようにしますから! だから、どうか、私をもらってくれませんか!?」
「こんなに可愛いエルフがもらえるんだから、男なら即答でしょ? あたしだって、その……夜だって、なんだってがんばるからさ。ほら、もらう、って言いなさいよ。あたしのこと……もらいなさいよ!」
「あー……」
双子の美少女エルフから言い寄られている。
男なら夢見るような場面だけど、いざ自分の身に降りかかると困惑しかないな。
……仕方ないだろう?
治癒師のことばかり考えていたから、情けないが恋愛経験はゼロだ。
こういう時、どうしていいかわからない。
「ダメ……ですか?」
「その……なんでもしてあげるわよ?」
「そう言われてもな」
二人は真剣だ。
本気で恩返しをしたいと思っているのだろう。
その方法は極端ではあるものの……
想いは本物だ。
……それを否定するということは、二人の想いまで否定するようなことか。
エルフの誇りも汚してしまうような気がする。
「……ちっ……」
舌打ち一つ。
「勝手にしろ」
「「それじゃあ……!!」」
「ただ、全部捧げるとか、そういうのはいらねえからな。ただまあ、ちょうどいいことに、俺は駆け出しの冒険者だ。今は仲間がいないから、パーティーに参加してくれ」
これが妥協案。
これ以上はちょっと……となる。
「はい、今は、それでも大丈夫です!」
「ま、まあ、ちょっと残念だけど……って、今のなし! なしよ!?」
よかった、納得してくれたみたいだ。
当面はソロ活動と思っていたんだが……
まあ、いいか。
やっぱり、仲間がいた方がいい。
いざという時に安全を確保できるとか、効率のいい冒険が可能とか、色々とメリットはある。
俺も治癒師という、戦闘に不安のある職だから、二人が加われば安定するだろう。
「仕方ねえから、コキ使ってやるよ。ただ、怪我はすんなよ? ちゃんと癒やしてやるが、面倒だからな。あまり俺の手を煩わせるな。だから、怪我をするな」
「は、はい! 気をつけます!」
「ユナ、セイルの言葉をそのまま受け取らない方がいいわ。これ、あたし達のことを心配しているんだと思う」
「そうなの……?」
「それ以外に聞こえない言葉でしょ。セイルって、ツンデレなのね」
「……ほざいてろ」
頭をがしがしとかいた。
適当に手を差し出す。
「……せいぜい、俺の邪魔にならないようにしろよ」
「はい! よろしくお願いします」
「よろしくね♪」
こうして俺は、ユナとアズとパーティーを組むことになった。
――――――――――
「パーティーを組むことになったが、二人は、冒険者登録は?」
「していません」
「していないわ」
「わかった。なら、登録から始めるか」
冒険者として活動するなら、ギルドへの登録が必須だ。
でないと、誰もが勝手に活動をして無法地帯になってしまうからな。
「私、うまく登録できるでしょうか……?」
「問題ねえだろ。一定の年齢以上で、怪我や病気をしていない健康体。それが最低条件で、それ以上に求められるものはねえからな。最低ランクからのスタートになるがな」
「そうですか、よかったです」
「ただ、その前に……」
今更ながら、二人が際どい格好をしていることに気づいた。
ボロ布にしか見えない服で、色々と危ない。
「確か……」
たくさんの荷物を詰め込んでいる、大型のリュックを引き寄せた。
中からいくらかの装備を取り出した。
クライブと旅をしていた時に得たものだ。
「これ、適当に好きなもの着ろ」
「わっ、いいんですか?」
「ちょ……どれも、めっちゃ高価そうなんだけど。あたし達、お金は持ってないわよ……?」
「いらねえよ。てめえらから金をむしり取るほど、俺は貧乏人じゃねえ。っていうか、パーティーメンバーが貧相な格好をしてたら、俺の常識が疑われるだろ。黙ってまともな格好をしろ」
「まーた、そういう素直になれない口の効き方を。ま、いいわ。素直にもらうわね」
「い、いいのかな……?」
「いいのよ。ここで断れば、またセイルがあれこれ、ツンデレを発動させるわよ」
「……それはちょっと見てみたいかも」
「おいこら」
俺は、口が悪くて追放されたようなものだが……
この二人は、なぜかそこを楽しんでいるようだ。
なぜだ?
「じゃあ、もらうわね」
ユナは笑顔で頷いて、ボロ布のような服を脱ごうと……
「待てこら」
「え?」
「なぜ、ここで着替えようとする……? そこの茂みとか、色々あるだろうが」
「でも、私はセイルさんのものなので、今更……」
「あたしはちょっと恥ずかしいけど……まあ、いずれ見られるわけだし……」
「貧相な体なんか見たくねえよ、ちゃんと隠れて着替えてこい」
「むー、いつか悩殺してやるんだから」
「がんばって成長しようね、お姉ちゃん!」
どこか不満そうにしつつ、双子は茂みの向こうに消えた。
二人の警戒心がゼロすぎる。
というよりは、俺への信頼が高すぎるのか?
俺を男として意識していないわけじゃないだろう。
単純に、恩人で全てを捧げるから、という意識なのだろう。
「ったく……色々な意味で先は大変そうだな」
ほんわか(?)する回、だったかもしれません(汗)。
拳で語る回復役、どこへ突き進んで行くのか……!?
「この先、どうなるんだろう」と少しでも思っていただけたら、
ぜひブクマで応援してもらえると嬉しいです!
8話は、今日、18時に更新予定です。