68話 必要ないと打ち切る
エヴァ・グレイスは、とある街に立ち寄る。
そこで身寄りのない子供達を保護する施設を立ち上げた。
エヴァの活躍もあり、多くの寄付金を得ることができた。
それだけではなくて、領主からも寄付金を得ることができた。
施設を運営するにあたり、とても大きな話だ。
エヴァは幅広く活躍して、聖女と呼ばれるほどになっていたが……
しかし、個人で施設を運営するとなると、それだけの資金を用意するのはとても難しい。
彼女が資産家、あるいは大きな力を持つ商人なら、あるいは可能だっただろう。
ただ、エヴァはあくまでも治癒師。
そして冒険者。
その立場で、自分だけの力で施設を運営することは厳しい。
周囲の助けあってこそ、だ。
最初は順調だった。
施設となる建物を買い上げて、改築して。
親のない子供達を引き取り、健全に育てて、同時に教育も施していく。
将来、きちんとした職について、一人で暮らしていくだけの力と知識を養うべきだ、という考えの元だ。
施設を起ち上げて数年。
いくらかの子供が巣立ち、いくらかの子供を新しく迎えた。
そのサイクルを続けていく。
子供達を救う。
そんな使命に燃えていたエヴァだったが……
しかし、暗雲が立ち込める。
資金繰りが厳しくなってきたのだ。
最初はエヴァの行いを称賛して、素晴らしいと笑顔で言う人々。
しかし、彼らの善意も懐も無限ではない。
寄付は少なくなる。
それは領主も同じ。
年々、寄付が少なくなり……
そしてついに、これ以上の寄付はできない、という通達を受けた。
ここにきてエヴァは己の失敗を悟る。
完全に善意に頼った運営。
それではダメなのだ。
最初はともかく、しばらくしたら自力でどうにかなるような仕組みを作らなければならなかった。
そのシステムを構築できず、窮地に陥ってしまう。
言い訳をするのならば……
初めての施設の運営。
子供達と向き合うということ。
なにもかも難しく、そちらに全てのリソースを割かれてしまい、どうすることもできなかった。
もちろん、これは言い訳にすぎない。
真に施設のことを考えるのならば、ある程度、施設が落ち着いたところでシステムを構築するべきだったのだ。
その点は、エヴァは真摯に反省した。
そして……
――――――――――
「今は、運営費を賄うために色々な仕事を請けている、という感じでしょうか」
「なるほど……ねぇ」
師匠の話を聞いて、色々と状況が見えてきた。
寄付を打ち切られたのなら、ボロボロなのも納得だ。
結局は金。
金がなければ、なにもかもうまくいかない。
納得のできる話だが……
ただ、納得できないところもある。
「師匠。あんた、しばらく会わねえうちにボケたか?」
「え?」
「わけわからねえことして、それのどこに意味がある?」
「ちょ、セイル!?」
チェルシーが慌てた。
師匠は表情を変えていないものの、気配が鋭利なものに変わる。
「……いや、待て。そういう意味じゃない。施設のことをバカにしたわけじゃなくて、今のは俺の言い方が悪いな」
「なら、なんでしょう?」
「やり方だよ、やり方」
寄付が打ち切られてしまう。
これはもう仕方ない。
人々や領主の金は無限にあるわけじゃない。
善意に頼り切りでは、いつか確実に終わりを迎えてしまう。
そうならないために独自で歩いていくシステムを構築する必要がある。
師匠はそれを忘れていたという。
だから、補うために働いて働いて働いているという。
他所に名声が届いたのもその影響だろう。
ただ、そこがすでに間違いだ。
「師匠が身を削るように働いても仕方ねーだろ」
「しかし、そうしなければ施設は……」
「結局のところ、今までと変わらねえよ。仮に、今はなんとかなったとしても、師匠が病気とかで倒れたらどうするんだ?」
「それは……」
「ま、師匠は風邪も逃げ出すような鬼みたいな人だからその心配は……おいまて。グラスを投げようとするな。師匠の場合、マジで投げるからやばいんだよ」
「なにが言いたいのですか?」
「やり方を間違えたままなんだよ。結局のところ、全てが師匠頼りじゃねえか。今はよくても、いつか破綻が来る。ってか、今もダメだろ」
「……」
痛いところを突かれたという感じで、師匠は苦い表情に。
「師匠に頼り切りじゃダメだ。そうならねえようなシステムを、ちゃんと構築すべきだろ。そこを忘れてるんじゃねえよ」
「それは理解していますが、しかし、口で言うほど簡単なことではありません」
「いいや、簡単さ」
俺は不敵に笑うのだった。




