67話 差し込む影
「……と、いうわけです」
師匠の語りを聞き終えて、俺は、なんともいえない気持ちになった。
俺から見たら、師匠は完璧超人だ。
なんでもできて、なんでも知っている。
治癒師として完璧だ。
ただ……
俺が思うほど完璧、ってわけじゃなかったんだな。
それもそうだ。
師匠はすさまじい力を持つが、それでも人間だ。
迷う時もあるし、悩みだってあるだろう。
それなのに俺は……
「……ちっ」
「どうしたの、セイル?」
「なんでもねえよ……」
師匠がくすりと笑う。
「私の悩みに気づくことができなかったからといって、そのことを恥じて、後悔する必要はありませんよ」
「おいこら!?」
人が珍しく微妙な気持ちになっているのに、あっさりとそれをバラすな!
チェルシーがにっこりと笑う。
「セイルは、お師匠さんのことが大好きなんだね」
「おいやめろ」
「照れなくてもいいのに」
だからやめろ。
マジで。
「でも……」
師匠は優しい顔で言う。
「セイルのおかげで、私の人生は新しいスタートを切ることができた……それは確かなことなのですよ」
「……おぅ」
そんなことを言われたら、もうなにも言えない。
とりあえず、お茶をもう一杯、飲んでおいた。
――――――――――
「……ところで」
あれから、適当な雑談をして。
ふと思い出して尋ねてみる。
「師匠がこの施設の院長……ってか、運営者なんだよな?」
「ええ、そうですよ」
「その割には、ボロくねえか?」
「ちょ、ちょっと、セイル!」
「本当のことだろ」
施設は廃墟と間違うほどのボロ。
孤児達の衣服もボロボロ。
あまり食べられていないのか痩せているヤツも多い。
師匠が金をケチっている、なんてことはないだろう。
よく見てみれば、師匠の家もボロい。
来客があるからだろうか、見た目は綺麗に整えているが……
あちらこちらが歪で今にも崩れてしまいそう。
それに、調度品なんてものはなにもない。
絵はいくらか飾られていたが……
あれは師匠が描いたものだな。
昔、見たことがある。
なにもないと寂しいから、という理由で飾っているのだろう。
たぶんだが。
「よく見ていますね」
「よく見ろ、って誰かに散々叩き込まれたからな」
「あら。しっかりと教えを守っているようでなによりです。ただ、口の悪さはまったく変わっていない……いいえ、昔よりも進化している?」
「……うるせえな」
なんというか、師匠は親っぽいところがあり……
どうにもこうにも逆らえず、返す言葉もふてくされたようなものになってしまう。
「で?」
「で、とは?」
「ごまかすんじゃねえよ。ここぞというタイミングで俺の話に切り替えたりするな。俺は、あの施設について聞いているんだぜ?」
「……」
「運営状況、悪いんだろ?」
しばしの沈黙。
ややあって、師匠は疲れたような困ったような、そんなため息をこぼす。
「少々、優秀に育てすぎたみたいですね」
「自分で言うか、それ」
「私は優秀ですから」
ドヤ顔を披露。
こういうところが師匠、って感じなんだよな。
ただ、その顔は長くは続かなくて……
疲れた表情に戻る。
「察しの通り、施設の運営状況はよくありません。私も私財を投じていますが、多くの子供達を育てるとなると、なかなか難しく……このままでは、遠くないうちに破綻してしまうでしょう」
その声は苦悩に満ちていた。




