66話 聖女の心
とある女性の治癒師がいた。
その道では知らない者がいないほどの伝説の治癒師として、かつて、世界に名を轟かせていた。
治せない病はない。
死者すら蘇生してみせる。
なんなら延命も可能。
普通なら笑ってしまうような与太話として捉えられるのだけど……
エヴァは本物だった。
その話の全てが事実。
故に伝説なのだ。
ただ……
彼女は周囲の称賛なんて気にしたことはない。
どうでもいい。
彼女は、純粋に人を助けたい。
だから治癒師になった。
それだけ。
なのに、周囲は汚れていた。
金をちらつかせて。
権力を見せつけて。
治せ、治せ、治せ……
俗な要求を繰り返してくる。
こんなものを治したい?
自分の人生を賭けて挑むべきこと?
彼女は道に迷い……
そして、表舞台から姿を消した。
それまでの名前を捨てて。
新しく、エヴァ・グレイスと名乗り。
特に目的のない放浪の旅に出た。
気まぐれに人を助けて。
あるいは、気まぐれに人を見捨てて。
そんな旅の果てに、小さな村にたどり着いた。
辺境だ。
観光的な目玉はなく、特産品もない。
ただ、エヴァはその村が気に入った。
なにもないけど、素朴で落ち着いていた。
ここなら、しばらくは穏やかに過ごすことができそうだ。
そして……
とある子供と出会った。
セイル・セインクラウス。
伝説と呼ばれたエヴァが驚くほどの才能を持っていた。
セイルはエヴァのことを知ると、彼女に憧れた。
同じ治癒師になりたいと、教えを乞うてきた。
エヴァは迷った。
今の自分は治癒師として失格だ。
救える命を見捨てたこともある。
それなのに、誰かにものを教えるなんてことができるだろうか?
その資格があるだろうか?
ただ……
最終的にセイルの熱量に負けた。
セイルが持つ才能を眠らせることを惜しく思った。
エヴァは、初めて弟子を取る。
自分の持つ全てを授けるために、全力で指導をした。
セイルがまだ子供ということは忘れた。
それは甘えと切り捨てた。
とにかく、全ての技術を叩き込んで……
それと同時に、治癒師としての心構えも教えた。
……自分と同じ間違いを犯さないために。
そして、セイルに全てを授けた後、エヴァは再び旅に出た。
目的はない。
ただ、目的はあった。
前回の、世俗に嫌気が指した末の放浪の旅ではなくて。
今の自分に何ができるだろう? という、目的を探すための旅だ。
その果てに、とある街にたどり着いて。
そこにいる、家のない子供達を保護することにした。
放っておけなかったのだ。
セイルと接して。
誰かを助けることの、治癒師としての使命を思い出して。
だから、子供達を助けることにした。
再び治癒師として活動して。
そこで得た資金で施設を作り、子供達を保護する。
これは正しいことなのか?
ただの自己満足ではないか?
偽善ではないか?
わからない。
今も答えに迷う。
ただ、救われている子供がいる。
子供達が笑顔でいる。
なら、それでいいではないか。
今では、エヴァはそう思えるようになっていた。




