64話 アルル
「ここが私の家だぜ」
案内されたのは、街の中心部から離れたところにある寂れた教会だった。
築数十年は経っているだろう。
外壁はヒビが入りボロボロだ。
窓ガラスもいくつか割れていて、応急処置なのか雑に木の板が貼られている。
「バケモンが住んでそうだな」
「セイル!」
「あはは。いいよ、姉ちゃん。兄ちゃんの言う通りだと思うし。下手に綺麗だねーとか素敵だねー、とか言われるより何倍もいいさ」
「へぇ、話がわかるじゃねえか」
「にひひ♪」
アルルは、思っていたよりも見どころがあるガキかもしれないな。
「むむ」
なぜかチェルシーが険しい表情をしていた。
「じゃ、中に入って」
「俺は神なんて信じてねえぞ?」
「お祈りをするわけじゃないって。併設させている施設が私の家なの」
施設。
つまり、アルルは孤児ってことか。
チェルシーと一緒に中に入る。
教会の内部もボロボロで、いくつか床に穴が空いていた。
ミシミシと鳴り、さらに穴が増えそうだ。
そんな教会を抜けて奥に行くと、アルルが言うように孤児のための施設が作られていた。
下は赤子。
上は……十五くらいか?
年齢はバラバラで、十人くらいの子供達がいる。
「あっ、アルルお姉ちゃん!」
「おかえりなさーい!」
「おう、今帰ったぜ」
子供達がアルルに気づいて、一斉に笑顔で駆け寄る。
アルルは慕われているみたいだ。
一人の子供がこちらを見て、小首を傾げる。
「ねえねえ、アルルお姉ちゃん。このおじさんとおばさん、誰?」
「おじ……!?」
「おば……!?」
俺とチェルシーの顔がひきつる。
若く見られたいとか、そんなことは思わないが……
だとしても、おじさん呼ばわりは思っていたよりも堪えるな。
チェルシーなんて、軽く気絶しそうになっていた。
「こらこら。兄ちゃんと姉ちゃんに失礼なことを言うな。二人は、私の恩人なんだ」
「おー……ごめんなさい」
「あ、ああ……別にいいさ。気にすんな」
「お兄ちゃん、優しい……! えへへ♪」
「お姉ちゃん、よく見たらきれー……えへへ♪」
一転して懐かれてしまう。
なんだ?
最近のガキってのは、こういうものなのか?
正体不明の生き物と遭遇したような気分で、どうすればいいかわからない。
そんな俺を見て、チェルシーが小さく笑う。
「ふふ」
「なに笑ってんだよ?」
「別にー?」
くっ。
チェルシーのすまし顔がうざい。
――――――――――
客間に案内されて、アルルがお茶を淹れてくれた。
出涸らしの薄い茶だが……
ま、味なんて気にしないからどうでもいい。
「なあなあ。兄ちゃんと姉ちゃんは冒険者なのか?」
「うん、そうだよ」
「俺もそうだが、どちらかってーと治癒師の方が本業だな」
「おー!」
アルルの目がキラキラと輝く。
冒険者に憧れているみたいだが、珍しいな。
ただ、これくらいのガキなら当然か?
冒険譚とかに憧れるところは多いだろう。
かくいう俺も、小さい頃は冒険者に憧れたものだ。
酒場に集まる冒険者に話をせがんで。
披露される冒険譚に心を踊らせて。
そして、色々とあって冒険者になったのだけど……
「……まあ、失敗くらいするか」
最初のパーティー……クライブのところで失敗した。
ただ、今はそうでもない。
ユナとアズがいて。
チェルシーと再びパーティーを組むことができて。
わりと楽しくやれている。
「ねえねえ、お兄ちゃん」
「あん?」
「どんな冒険をしているの? その……聞かせてほしいな」
「あー……」
ガキにせがまれた。
めんどくさい。
めんどくせえが……
「……俺は口が得意じゃねえから、そこに文句は言うんじゃねえぞ」
「うん!」
キラキラ笑顔に負けてしまう。
まったく……
本当、ガキはめんどくさいな。




