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57話 海だ! 太陽だ! 水着だ!

「……なんで、こんなことになってんだ?」


 水着姿の俺は、砂浜にレジャーシートを敷いて、パラソルを立てた。

 そこに荷物を置く。


 聖女に会いに来たはずなんだが……

 気がつけば海水浴。

 なにしてんだ?


「……ま、仕方ねえか」


 ユナとアズは、まだまだガキだ。

 海も初めて見るらしいから、遊びたいって思うのは仕方ないだろう。


 チェルシーは二人よりも大人だが……

 ただ、ちと事情が複雑だ。


 子供らしい子供時代を送ってなかったらしく。

 魔法使いとしての鍛錬に明け暮れる日々。

 俺と似たところがある。

 だからこそ、クライブのパーティーでチェルシーに一番気を許していた。


 そんなチェルシーだからこそ、普通に遊んだ経験も少なく……

 こういう機会を逃したくなく、今は自由にやりたいらしく。

 海水浴をしよう、ということになった。


「オンッ」

「なんだ、お前も楽しみなのか?」


 ソルが足元にじゃれついてきた。

 尻尾がちぎれんばかりに振られている。


「おまたせー!」


 チェルシーの声。

 振り返ると……


「ふふ、どう?」

「えっと、その……ど、どうでしょうか?」

「あ、あまりジロジロ見たらダメよ! でも、やっぱりセイルなら……」


 水着に着替えた三人がいた。


 チェルシーは、やや露出の高いビキニタイプだ。

 普段はローブを着ているからよくわからないが、意外とスタイルがいいんだよな。


 ただ、なぜか魔法使いの帽子を被っていた。

 ……熱中症対策か?


 ユナとアズは、おそろいの水着だ。

 フリルのついた可愛らしいもの。

 色は、ユナが緑でアズが青。

 双子ならではの個性が出ている様子。


「「「じー……」」」


 期待するような三人の視線。

 めんどくせえ……


「似合ってるんじゃねえか? いいと思うぞ」

「やった、セイルさんに褒められた!」

「ふふ♪ あたし達の魅力にメロメロね!」


 ユナがアズが喜ぶ。


 ……喜ぶようなことか?

 俺は感想を口にしただけだが。


「……」


 チェルシーは、なぜかぽかんとして驚いていた。


「どうした?」

「セイルが、素直に褒めてくれるなんて……」

「語彙力のねえ褒め言葉だぞ?」

「そんなことないって。セイルがあそこまで言うなんて、あたしの中では特大の褒め言葉なんだもん」

「そうですね。普段のセイルさんを考えると、『そこそこだな』とか言いそうです」

「あ、わかるそれ。照れ隠しに近いというか。まあ、照れてるわけじゃないんだろうけど、なんかぶっきらぼうな感想を想像していたわ」


 俺は、どう反応すればいい……?


「そういうこと。だから、『似合っている』の一言でもすごく嬉しいの♪」

「……そんなもんか」


 女心ってのはよくわからねえな。




――――――――――




「「「ひゃーーー♪」」」


 ユナとアズとチェルシーが海に突撃した。


 冷たい水。

 押して返していく波。

 それらの感触に特大の笑顔になって、暑い太陽の下で弾ける。


 波を蹴り上げて。

 あるいは、手ですくって。

 水飛沫を舞い上げて、海を存分に満喫する。


 一方の俺は……


「……ふむ」


 パラソルの下でのんびりと読書をしていた。

 この街に来る途中、行商と出会い、なかなか面白そうな本を手に入れることができた。


 旅の間、読んでいて……

 しかし読みきれず、今、続きを読んでいるというわけだ。


「オンッ」


 ソルが俺を見上げて、次いで海を見る。

 一緒に遊ぼう、ってか?


「後でな」

「くぅーん……」


 ものすごくしょんぼりされてしまう。

 尻尾が垂れ下がり、ふらふらとよろめいて、ぱたりと倒れてしまう。


 おい、演技がうまいな。


「……ったく」


 犬っころにここまでさせておいて、さすがに無視したらガキすぎるか。

 俺は本を閉じて、立ち上がる。


「いくぞ」

「オンッ!!!」


 ソルの今日一番の鳴き声が響いた。

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― 新着の感想 ―
アレ?おかしいな?海の思い出、はしゃぐカップルを横目にアイス売ってた記憶しか無い(泣)
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