54話 ユナとアズの力
「オンッ!」
ソルが大きな声で吠えた。
狼の姿をした魔物……ウルフの群れは、ビクリと震えて、慌てて逃げ出す。
小さな子犬を相手になにを……
と思わないでもないが、一応、ソルはフェンリルだ。
幼体なので大した力は持たないが、王者の威厳の欠片をまとっているらしく、ウルフ程度の魔物なら追い立てることが可能だ。
「いらっしゃーい♪」
追い立てられた先にチェルシーがいた。
杖を構えて。
ちょうど魔法の詠唱を終えて。
「フレアブラスト!」
紅蓮の業火が炸裂して、ウルフの群れの半分を飲み込んだ。
残り半分は、たまたま運がよく避けられただけ。
生き残ることはできたものの、対抗手段は持たない。
逃げる策もない。
そのまま恐慌状態に陥り、でたらめな行動を始めて……
「ガァッ!!!」
いくらかが、やぶれかぶれといった感じでこちらに突撃してきた。
ただ……
それは全て読んでいた。
「ユナ!」
「はい!」
合図を送ると、ユナは、先日習得したばかりのスキル『鑑定』を使う。
じっと目を凝らして。
突撃してくるウルフに怯むことなく、相手の弱点を『鑑定』する。
「……見えた! お姉ちゃん、あいつ、チェルシーさんの魔法で首を痛めてるよ!」
「オッケー、任せておきなさい!」
アズは地面に手をついた。
その状態で『鍛冶』を発動させる。
地面が隆起して土の壁ができた。
突然のことにウルフは驚くものの、全速力で駆けていたため、すぐに止まることはできない。
ガン! と激突。
かなりの勢いが出ていたため、自らの首の骨を折ることになり、自爆。
そのままウルフは崩れ落ちた。
「「やったーーー!!」」
ユナとアズは笑顔でハイタッチを交わした。
まだ戦闘は終わってないんだが……
「ま、今回くらいはいいか」
――――――――――
ユナの『鑑定』。
アズの『鍛冶』。
一見するとどちらも戦闘に向いていないスキルだ。
ただ、しっかりと突き詰めていけば十分に使える。
というか、可能性しかない。
鑑定は、名前の通りものの本質を見抜く力。
一般的には、ものの良し悪しを判断したり、贋作を見抜いたりすることに使われることが多いのだけど……
鑑定する『もの』には生き物も含まれている。
生き物を鑑定すれば、そいつが抱えている問題点などを把握することができる。
つまり弱点だ。
直接的に敵を叩くことはできないが……
敵の情報が得られるという点では、これ以上ないほど有用なスキルだ。
同じく『鍛冶』も有用だ。
普通に考えると、武具などを創造するスキル。
実際、その通りに使われることが多い。
ただ、より細かいところを追求していくと……
『鍛冶』というのは、ものを加工して思い通りに作り上げるスキルだ。
本来は金属だけに限定されたらしい。
ただ、とある人が……
『金属に限定されているなんて誰が決めた?』
とか言い出して、実際に金属以外を加工してみせた。
つまり、金属に限定されない力。
無機物なら加工ができるということ。
さきほどアズがしてみせたように、土を加工して壁を作るなどが可能で……
その創造能力を考えると、戦闘で大きな活躍ができるだろう。
というか、戦闘に限定されない。
ユナの鑑定は、患者の病気の特定に繋がるだろう。
アズの鍛冶は、いざという時に手術道具を作ってもらうことができる。
……と、俺も大助かりのスキルだ。
そんなことを伝えたら二人は喜び、さっそく実戦で試すことになった。
まだスキルを覚えたばかりで……
「あ、あれ……なんか力が……」
「すごく疲れたわ……」
一回だけであの有り様。
それに、まだ初歩の初歩だから、できることも限られているだろう。
でも……
「「えへへ」」
二人は己だけの『武器』を手に入れたことを喜び、笑顔をこぼすのだった。




