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5話 囚われていた双子のエルフ

「おい、大丈夫か?」


 牢の外から声をかけた。


 奴隷商人は奇妙な悲鳴をあげながら逃げていった。

 図体のわりに素早く、鍵を回収しそこねた。

 追いかけてもいいが、エルフをここに残していくのも不安だ。


「えっと、あの……」

「ユナ、騙されちゃダメよ! こいつ、人間なんだから!」


 なにか答えようとしてくれたのだけど、もう一人がそれを遮る。

 こんな目に遭って、人間不信に陥っているみたいだ。


「俺は連中の仲間じゃねえよ……って言っても、信じてもらえないか」

「ふんっ、信じられないわね! 甘い言葉をかけて、あたし達を油断させて、なんかこう……いやらしいことをするつもりでしょう!? あたし達、エルフは希少だからね! きっと薄暗い部屋に閉じ込められて、首輪をつけられて、ベッドの上で乱暴に……はわわわっ!?」


 妄想がたくましすぎやしないか……?


「そんなことするか。ってか、俺の守備範囲はもっと上だ」

「なっ……し、失礼なこと言わないでくれる!?」

「うるせえな。とりあえず、牢の鍵を開けるから離れてろ」

「無理よ。それ、とても頑丈だから、鍵がないと開けることは……」


 カチャン。


「……え? 開いた?」

「俺、ピッキングスキルを持っているんだよ」

「なんでよ!? あんた、治癒師なんでしょ!?」

「一人暮らしの人が部屋の中で倒れて、でも鍵がかかっていて中に入れず、救助できない、っていう痛ましい事件がたまにあるだろ? そういう時に備えて、ピッキングスキルを身に着けているんだよ。これくらい、治癒師の間では常識だぞ」

「嘘つきなさい!? そんな話、聞いたことないわよ、非常識よ!?」


 元気な子だ。

 これだけ元気なら、あまり心配はいらないかもしれない。


 気になるのは……


「……ぅ……」


 もう一人の子だ。

 さきほどから、とても静かだ。


 ……けっこうまずいかもしれないな。


「おい、早く外に出ろ」

「な、なによ、その言い方……まあ、せっかくのチャンスを不意にするバカはいないわね。こいつは口が悪いから信用できないけど、せめて外に……ユナ、出るわよ」

「うん……」


 最初に元気な方の子が降りて。

 次は、おとなしい子が……


「……ぁ……」

「っと、大丈夫か?」


 降りようとしたところでふらついてしまう。

 慌てて駆け寄り、受け止めた。


「ユナ!? ちょっと、大丈夫!?」

「やっぱりか……この子、熱があるな」

「えっ」


 額に触れる。

 この感じ……40度前後か?


 呼吸も荒い。

 顔は青白く、生気というものを感じられない。


「やはり、ただの風邪じゃないな」

「な、なにか知っているの!?」

「お前達がつけている、奴隷の首輪の影響だな。その首輪には、主に逆らえないような魔法が込められている。悪質な魔法だろ? 呪に等しい。そんなものを身につけて、間近で影響を受け続けていたら、魔力が汚染されてこうなる、ってわけだ。このままだと、正直、けっこうまずいな」

「そ、そんなことが……でも、それじゃあ、あたしは!?」

「単純に、体力の差だな。心当たりはないか?」

「それは……この子はおとなしくて、ちょっと病弱なところもあって。それに、捕まってすっかりまいっていたから……」

「なるほどな。病は気から、って言うが、この場合はピタリとあてはまるな」


 ま、問題ない。


 呪いも治癒師の担当だ。

 そして俺は、今まで何度も呪いを解呪してきた。


「……」


 ユナと呼ばれているエルフの少女をしっかりと観察する。

 呼吸、意識の混濁具合、熱、筋肉の張り、魔力の流れ……それらを総合して、やはり魔力汚染と判断した。


 その原因は……奴隷首輪だな。

 この首輪があるせいで、体内の魔力が乱されて、汚染されている。


 まずは、原因である首輪の除去。

 それから、体力などの回復だな。


「おい、治療するが問題ないな?」

「えっ、できるの!?」

「できる。この首輪が呪いの引き金になっているから、破壊してしまえばいい。ま、それだけで体力とかは戻らねえから、ちと、アフターケアーは必要だがな」

「なにをバカな……! それこそ不可能よ! これは、鍵もなにもない。解除するには、契約者の同意が必要なのよ。それに、無理に破壊しようとしたら、それこそアウト。仕込まれている毒が流れ出て、奴隷を殺すわ」

「ちっ、胸糞わりいものを作りやがる」


 ただ。


「俺なら、助けることができる」

「……え……」

「絶対だ、絶対に助けることができる」

「ほ、本当に……?」

「嘘じゃない。気休めでもない。断言できる。ただ……100パーセントと断言はできねえな。完璧に成功する、なんて言うやつがいたら、そいつは詐欺師か神様のどちらかだな」

「な、なら、何パーセントで……?」

「99パーセント」

「……」

「ってなわけで、治療するぞ」

「ま、待って!? あたしは、まだ、それを許したわけじゃ……あんたのことだって、信用したわけじゃ……」

「いいから黙って治療させろ」

「で、でも、あたし、お金なんて持ってないし……」

「んなものどうでもいい。俺は治癒師で、病人を治療したい。それだけだ」

「ボランティア、っていうわけ……?」

「んな上等なものじゃねえ。治癒師としての在り方を曲げないために、そうしているだけだ。俺の生き方、みたいなものだな」

「……」

「悪いようにはしない、俺を信じろ。ガキの頃からやってきた治癒師の誇りに賭けて、この子を助けると約束しよう。失敗した場合は、俺の命で償ってやるよ……癒しは甘えじゃねえ。命と向き合う覚悟だ」

「……っ……」


 女の子は俺を見て、手を伸ばそうとして、止めて……

 迷うように視線を揺らして……


 最後は、そっと俺の手を取る。


「お、お願いっ……ユナを……あたしの大事な妹を、助けて……」


 涙を流しつつ、そう願う。


「任せろ」


 この子は絶対に助けてみせる!

 固く決意して、上着を地面に敷いて、その上に寝かせた。


「さあ、オペを始めるぜ」

ここまでお付き合いありがとうございます!


双子のエルフはどうなるのか――

物語が少しずつ動き出します!


「ちょっと気になる」「続きも読んでみたい」と思っていただけたら、

ぜひブクマや評価で応援いただけると嬉しいです!


次の6話は、本日20時に投稿予定です。ぜひ、お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
治療と近接戦闘に加えて、ピッキングまで…神官拳士と思いきや、盗賊の技も身に着けているのですか…。 後、双子のエルフがビステマのソラとルナを思い起こさせます…。
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