49話 癒やしの勇者
その後、無事にチェルシー達と合流できた。
チェルシー達は、ティトとルルカを撃退したらしい。
三人を捕縛して街へ戻り……
そして、クライブ達を憲兵に引き渡すと同時に、なにがあったのか説明をした。
その後、本格的な調査がスタート。
事情聴取もしているらしいが……
意外というか、クライブは素直に罪を認めているらしい。
己の欲に従い俺達を襲ったこと。
チェルシーに暴力を働いたこと。
その他の余罪……全て、素直に自白しているようだ。
いくら元勇者でも、そのようなことは許されない。
武具を全て取り上げられて。
厳重に拘束されて。
なにもかも失い……
そして、後日、裁判にかけられるらしい。
又聞きではあるものの、クライブ達は重い罪に問われるらしい。
極刑か。
あるいは、労働奴隷として鉱山に送られるか。
どちらにしても、もうまともに生きていくことはできない。
連中の人生は終わりだ。
そんな結末を迎えることになり、クライブはなにを思い、なにを考えたのか?
それはわからない。
予想もできない。
全て、終わったことだ。
そう。
終わったこと……なにもかも。
――――――――――
「……」
街を歩く。
特に目的はない、ただの散歩だ。
「ふぅ」
自然と吐息がこぼれた。
ここ最近、そういうのが多い。
もう振り切ったつもりだったが……
ただ、そうそううまくはいかないか。
忙しい時はいいのだけど……
ふと、余裕ができた時、クライブ達のことを考えてしまう。
うまくやれていると思ったのは俺だけ。
ルルカやティトは、そうは思ってくれず……
クライブに至っては、俺のことを疎ましく思っていた。
……昔から。
その事実が俺の心を憂鬱とさせる。
こんな俺だと、もう……
「セイルさん」
ふと、ユナがにっこりと笑いかけてきた。
その隣にいるアズも同じだ。
「ん?」
「あそこの露店の串焼き、美味しそうだと思いませんか?」
「今日のお昼、露店巡りにしましょう。たまには、そういうのも悪くないと思わない?」
「……そうだな。それもいいかもな」
二人に気を遣わせてしまっているな。
あー……ダメだな、これは。
いつまでも気にしてなんかいられない。
仲間のためにも。
俺のためにも。
「セイル!」
「うおっ」
いきなりチェルシーが抱きついてきた。
「なんだよ……?」
「最近のセイルは、色々とがんばっていたから、ご褒美♪」
「ご褒美?」
「どう? うら若き乙女の体の感触は?」
「……わざとなのか」
「ふふ♪」
ユナもアズも。
そしてチェルシーも、俺のことを気にしてくれている。
自分のことのように心配してくれている。
……そうだな。
今度こそ大丈夫だ。
まだ、完全に気持ちを切り替えられたわけじゃない。
今後も、クライブ達のことを考える時は出てくるだろう。
でも、それはそれ。
必要以上に気を取られることはない。
嫌な感情を抱くことはない。
なぜなら……
俺にはもう、クライブ達よりも何倍も素敵な仲間がいるのだから。
余計なことを気にする必要はない。
「だ、誰かっ!」
ふと、悲鳴のような声が聞こえてきた。
街の広場。
その一角に人だかりができている。
「治癒師を……治癒師はいないか!? い、いきなり妻が倒れて……あぁ、ど、どうすれば……」
人だかりの向こうに、倒れた女性を抱く男性が見えた。
とても慌てている様子で、涙目になっている。
「セイルさん」
「セイル」
「ああ」
ユナとアズの視線を受けて、俺は大きく頷いた。
任せておけ、という意味だ。
チェルシーは、どこか嬉しそうに笑っている。
俺は人だかりに向かい……
そして、相手を不安にさせないように、堂々と力強く名乗る。
「俺は……治癒師だ」
ここでキリがいいので終わろうかな・・・と最初は考えていたのですが、たくさんの感想をいただき、とても嬉しいです! もうしばらく続けようと思いますが、構想をしっかりと考えたいので少しだけお休みします。一月以内には再開する予定です。よろしくお願いします。




