48話 どちらが真の勇者か?
俺は拳を繰り出して。
クライブは剣を振るい。
互いに攻撃を繰り出していく。
何度も。
何度も。
何度も。
刃を交わして。
それと同時に、想いも激突させて。
互いの持つ力の全てを引き出して、相手を否定するべく、力をぶつけていく。
悲しい戦いだ。
寂しい戦いだ。
でも、今更退くことはできない。
俺もクライブも。
ここで退けば、もう立ち上がることはできないと自覚している。
だからこそ、幼馴染であろうとかつてのパーティーメンバーであろうと、全力でぶつかっていく。
その結果は……
――――――――――
「くそっ……どうして、どうしてこの俺が……勇者なのに!!!」
地面に膝をついたのはクライブの方だった。
やはりというか……
クライブは弱くなっていた。
執念……いや。
妄念と呼ぶべきか?
そんなものに取り憑かれているせいで、剣がとても鈍い。
動きも遅い。
かつて、故郷にいた頃の方がまだ強い。
……残念だ。
ここまで落ちぶれたクライブを見ることになるとはな。
「俺の勝ちだな」
「くっ……!」
クライブは、悔しそうに唇を噛んだ。
わずかに血が流れる。
「なぜ、勇者であるこの俺が……! たかが、治癒師ごときに……!!!」
「だから、てめえはダメなんだよ」
「なに!?」
今のクライブを見ていると、酷く寂しい気持ちになる。
かつて、笑顔で夢を語り合い、キラキラと目を輝かせていたのだけど……
その頃のクライブはいない。
欠片も残っていない。
勇者になったことで、クライブは変わった。
なにもかも変質してしまった。
「どちらが勇者とか、どうでもいいだろうが」
「貴様……!」
「だって、そうだろ? 誰かに与えられた特別なものだけど、でも、勇者になってもならなくても、クライブがクライブであることに変わりない。俺が俺であることも」
「……」
「結局のところ、ただの称号だ。それで、人は変わらない。そのままだ」
「……」
「振り回されるのは、もういいんじゃないか?」
クライブは、『勇者』であることにこだわりすぎて、このようになってしまった。
ある意味で、変えられた、ということになるのだけど……
言い換えるのなら、最初からこんな性格だったのだろう。
こういう心の持ち主だったのだろう。
「どちらが真の勇者とか、俺は、どうでもいい」
「……っ……」
クライブは立ち上がることができず。
悔しそうに、無言で地面に拳を叩きつけた。
その姿は、いつもより小さく見えて……
存在感も薄く感じられて……
怒りは湧いてこない。
ただ、ひたすらに哀れだ。
「ま……それはともかく、だ」
俺は、前に出た。
拳を構える。
「お前の歪んだ心……この拳で治療してやるよ。おら、来い」
「くそっ……」
クライブは、ゆらりと立ち上がる。
さながら幽鬼のよう。
血走った目でこちらを睨みつけて。
口から泡を吹きつつ叫んで。
「俺は、俺は……セイルに負けてたまるかああああああああぁぁぁっ!!!!!」
「だから……」
クライブの剣撃を回避して。
カウンターで、痛烈な一撃を顔面に叩き込む。
「がっ……!?」
「んな勝負、俺は、どうでもいい。何度も言わせるな、ボケ」
クライブは、今度こそ立ち上がることができず、昏倒した。
地面の上に転がり、白目を剥いてピクピクと痙攣する。
その姿は、ひたすらに哀れで……
「俺は、てめえがムカついた。だから、殴り……それから、治療してやるよ。それが、俺のやり方だ」
虚しさを覚えつつも、クライブに治癒魔法をかけるのだった。




