46話 どちらが本物か?
「……クライブ……」
クライブと対峙して、これが罠だということにすぐ気づいた。
俺がクライブの居場所を予想できたように。
クライブもまた、俺の思考をトレースして、その行動を予想したのだろう。
そして、この砦に罠を仕掛けた。
俺と一対一の状況を作り出すために。
「セイル、お前はどうしようもないグズではあるが、察しはいいからな。俺がなにを求めているか、なにを言いたいか。わかるだろう?」
「ああ」
「なら、決着をつけようか」
クライブは剣を抜いて、その刃をこちらに向けてきた。
「お前も勇者を名乗っているらしいな?」
「ちげえよ」
「ふん、とぼけても無駄だ。治癒の勇者……はっ、バカバカしい。そして、極めて不愉快だ。勇者は、この俺だ。決して、お前のようなグズじゃない」
「……本気なんだな?」
「むしろ、この状況で嘘や冗談だと思うのか?」
「……思わないな」
「なら、そういうことだ……勇者は二人もいらない。この俺だけで十分だ」
ぶわっと、殺気が膨れ上がる。
脅しているとか、怒りに飲まれているとか。
そういうことはなくて……
本物の殺意だ。
「……」
クライブにそこまでの覚悟と決意があるのなら、俺も覚悟をきめよう。
俺も拳を構えた。
「はっ、生身で俺と戦うつもりか?」
「ただの拳じゃないぜ? クライブ……この拳で、お前の歪んだ心を治療してやるよ」
なぜ、こんなことになったのか?
確たることは言えないものの、あれから色々と考える時間はあったため、ある程度、予想はできた。
クライブはプライドが高い。
そして、勇者であることに誇りを持っている。
そこに、『癒やしの勇者』なんてものが現れたら?
心に土足で踏み入るようなもので……
クライブからしたら、決して許すことはできないだろう。
ヤツは、そういう性格だ。
他にも、色々と心当たりはあった。
ヤツのプライドを踏みつけるような行為をしてきたかもしれない。
「ま……だとしても、てめえのやってることは、ただの逆恨みだ。同情なんて、一切しねえよ」
「貴様にそんなものをされてたまるか」
「いくぞ」
「こい」
そして、俺とクライブは激突した。
――――――――――
「はぁあああっ!!!」
クライブは風のように動いて、一気に距離を詰めてきた。
そのままの勢いで剣を振り下ろしてくる。
速い。
そして鋭い。
もしも直撃したら、骨ごと両断されてしまうだろう。
俺は、横から剣の腹を殴りつけて、クライブの剣撃を受け流した。
そしてカウンターを……
「舐めるな!」
「……っ……」
クライブは体勢を崩すことなく、流れるような動作で、すぐに次の攻撃を繰り出してきた。
今度は剣が跳ね上がる。
下から刈り上げるかのような一撃。
それを避けると、今度は片足を軸に回転して、横に薙いできた。
さすが、というべきか。
クライブの剣は、なかなか隙を見つけることができない。
嵐のような猛攻で、俺は、防御と回避に専念する。
「どうした!? 貴様も勇者と呼ばれているのなら、少しは抵抗してみせろ。まあ、できないだろうな。俺とは違い、所詮、紛い物……俺に敵うわけがない! そうだ、俺こそが真の勇者だ!」
「……真の勇者とか、そういうのはどうでもいいんだよ」
「なんだと!?」
「そもそも……」
クライブの剣を避けた。
刃が髪先をかする。
ただ、ギリギリで回避、というわけではない。
ミリ単位で見切り、必要最小限の動きで避けただけ。
今まで防御と回避に徹していたのは、ヤツの攻撃を見切るためだ。
「俺は……治癒師だ!」
「ぐっ……!?」
ヤツの腹部を殴り、その体を吹き飛ばしてやる。




