45話 舐めないでくれる?
「そこのエルフのガキはどうでもいいけど、チェルシーは許せないわね。今度こそ死になさい」
ルルカは冷たく言い放つと、胸元から小瓶を取り出した。
中は琥珀色の液体で埋められている。
チェルシーは怪訝そうな顔に。
「なによ、それ?」
「とっておき♪」
ルルカは微笑み、小瓶を握りしめて魔力を注いだ。
それに反応して、琥珀色の液体が黄金に輝く。
「い、いったいなにが……」
「すごく嫌な予感がするわ!」
ユナとアズが怯える中、ルルカは小瓶を放る。
宙で小瓶が割れた。
琥珀色の液体が散るものの、重力に逆らい、その場に留まる。
それだけではなくて生き物のように動いて、宙に魔法陣を描いていく。
「それは……そうか、魔道具を使った召喚ね!?」
「正解♪」
光が広がる。
魔法陣が輝く。
異なる世界に繋がり、ルルカの意に応じたモノを呼び寄せる。
それは、決して安全なものではないだろう。
ルルカ達にも牙を剥く可能性はある。
だからこそ、ティトがいる。
安全圏に退避しつつ、ティトに守ってもらう。
そうすれば、召喚されたモノはチェルシー達を狙うだろう。
あとは時間切れを待てばいい。
不完全な代物なので、召喚されたモノは、長時間、この世界に留まることは不可能だ。
いくらかの時間経過と共に、強制的に消えてしまう。
時間限定の爆弾を使うようなもの。
しかし、その威力は抜群。
ルルカは己の勝利を確信するのだけど……
「フレア」
チェルシーの魔法が魔法陣を撃つ。
輝きは消えて、光は霧散した。
つまり……
発動前に止められてしまう、というルルカとティトにとって最悪の展開となる。
「なっ……!? ど、どうして……」
「どうして、って……ルルカって、そこまでアホだったっけ?」
「はぁ!?」
「その魔道具、作ったのあたしなんだけど」
「……」
「あたしが作ったんだから、当然、対策も熟知しているわよ。どこをどういう風に撃ち抜けば無力化できるかなんて、寝ててもできるわ」
「そ、それは……」
「あのさ」
チェルシーはため息を一つ。
それから、ギロリと睨みつけた。
「あまりあたしを舐めないでくれる?」
「くっ……!」
一方で、ユナとアズは、ぽかーんとして。
「なんか……こういう時って、相手の切り札を打ち破ってこそ、よね?」
「うん……そんなものは通用しないよ、とか。そんな、かっこいい感じです」
「今の裏をかくようなやり方、セイルっぽいかも」
「あ、わかるかも。セイルさん、無茶苦茶な力を持っているだけじゃなくて、必要最小限の労力で済ませようとするところがあるから」
「んー……さすが、元パーティーメンバー、っていう感じ?」
「似た者同士だね」
「ちょっと、そこ。常識人であるあたしを、セイルと一緒にしないでくれる」
なかなか酷い言われようだった。
本人がいないからいいたい放題である。
とはいえ、セイルにも原因はあるかもしれないが。
「さて」
チェルシーは、改めてルルカとティトに向き直る。
「今の、たぶん、切り札でしょ? それを、あっさりと無効化された気分はどう? ねえねえ、今、どんな気持ち?」
「「うぐっ」」
「……チェルシーさんの方が悪者っぽいですね」
「……あたし、知っているわ。ああいうの、メスガキっていうのよ」
「そこ、うっさい。ま、それはともかく……せっかくだから、あたしの切り札も見せようか? もっとも……」
チェルシーは冷たい表情で杖を構えた。
「あたしの切り札は、二人ほど甘くないけど」
「「……」」
……その後。
爆音と悲鳴がしばらく響いていたという。




