44話 譲れないものを賭けて
「最初は、キミ達のことなんてどうでもよかったんだけどね」
ティトは武装を展開しつつ、言う。
「でも……ここ最近のキミ達は、さすがに看過できない。勇者を勝手に名乗るだけじゃなくて、チェルシーもそちらについて……そしてなによりも、先の蛮行。僕達を舐めるのも、大概にしてほしいな?」
「邪魔者は潰す。一切合切、遠慮なく潰す。私達のために、ここで死んでちょうだい? まともに戦えば、私達が負けるなんてことはないもの。あの時は、セイルが卑怯な不意打ちに出ただけ」
最近、大きな活躍を見せて。
『癒やしの勇者』と呼ばれるようになったセイル。
クライブ達からしたら、目障りなこと、この上ない。
セイル達が称賛されて、自分達の評価が相対的に下がり……
さらに、チェルシーも脱退してしまう。
それ以前に、不意打ちによる強襲。
どうにかこうにか治癒師のおかげで助かったものの、傷は深い。
恥も大きい。
許せるわけがない。
これ以上、調子に乗らないように、ここで潰しておく必要がある。
これ以上、自分達の邪魔にならないように、消しておく必要がある。
そうすれば、自分達のパーティーは、再び輝くことができるだろう。
そのための踏み台になるのならば、とても光栄なことだろう。
ティトとルルカは、わりと真面目にそんなことを考えていて……
そして、欲望を満たすために、セイル達を排除することにした。
「私達から攻め込もう、ってことでしたけど……これは、罠ですね。ここなら、他所から人がやってくることはない。私達が死んだとしても、あなた達の証言で真相は都合よく書き換えられてしまう」
「で、あたし達の意思を継ぐとかなんとかいって、そのまま評価と人気を横取り。再び人気パーティーに返り咲こう、っていう魂胆ね。してやられた、って感じかしら?」
「へぇ……まだ幼いのに、なかなか聡明じゃないか。悪くないね。どうだい? 僕の愛人になるのなら、キミ達二人は見逃してあげてもいいよ」
「「はっ」」
ティトの誘いに、ユナとアズは鼻で笑う。
「私とお姉ちゃんが、あなたの愛人に? 最高に笑えない冗談ですね」
「っていうか、あんた、自分の顔、見たことある? 最低じゃん。セイルっていう最高の人がいるのに、なんでわざわざ、最低を選ばないといけないの?」
「貴様ら……!」
「ほら、つまらない話はそこまで。さっさとやるべきことをやりましょう」
ルルカは、両手に短剣を握る。
それを見て、チェルシーは杖を構えて……
ユナとアズも、いつでも動けるように構えた。
「「「……」」」
沈黙。
そして……
「「「っ!!!」」」
ほぼほぼ同時に、その場の全員が動いた。
――――――――――
「「ファイア!!」」
先手を打ったのは、アズとユナだ。
同時に同じ魔法を使う。
放たれた炎弾は、正確無比にティトを狙う。
精度は抜群。
威力も申し分ないだろう。
しかし……
「甘いね」
ティトは大盾で魔法をガードした。
爆炎が大きく広がるものの、ティトと、その後ろにいるルルカにダメージが届くことはない。
完璧な防御だ。
伊達に、元ではあるが勇者パーティーのタンクを務めていない。
「生意気ね、少し教育しないと」
ルルカは妖しげに微笑みつつ、短剣を投げた。
風を裂くかのように投擲されたものの、チェルシーとユナは危なげなく回避してみせた。
日頃、セイルの無茶を目の当たりにしているため、せめて足手まといにならないようにしないと、と密かに特訓していたおかげだ。
体が自由に、思い通りに動く。
「ティトの台詞を借りるけど、甘いわね」
「えっ!?」
避けたはずの短剣が生き物のように反転して、再び襲いかかってきた。
まったくの予想外。
アズとユナは今度は避けることができず、浅くではあるものの、腕を切られてしまう。
「大丈夫!?」
慌ててチェルシーが駆け寄り、ポーションを使用した。
「今、なにが……」
「短剣に糸をくくりつけていて、それで操作したんだと思う。ルルカはスカウトだから、そういう小細工が得意なのよ」
「ちょっと、小細工とか言わないでくれる? チェルシーだって、その恩恵を受けていたでしょ」
「ま、それはそうだけどね」
チェルシーは、アズとユナを背中にかばいつつ、不敵な表情を浮かべてみせた。
「ルルカに受けた恩恵より、セイルに助けてもらった方が万倍多いかな?」
「この……!」
ルルカは怒りの形相で、今度は五本の短剣を同時に投擲した。
その全てに糸がくくりつけられていて、ある程度、自由に操作することが可能だ。
避けたとしても、生き物のように追いかけてくるだろう。
なので。
「ブラストフレア!」
全て吹き飛ばすことにして、チェルシーは魔法を放つ。
炎が竜巻のように舞い上がり、五本の短剣、全てを吹き飛ばした。
……というか、粉々に打ち砕いた。
「「すご……」」
「ふふーん。これでも、火力担当だったからねー。ルルカの短剣を壊すのなんて、寝るよりも簡単かしら?」
「……言ってくれるわね」
あからさまな挑発なのだけど、それを無視できるほどの度量がルルカにあれば、今頃、こうして対立なんてしていない。
「ティト、あれをやるわよ」
「やれやれ、仕方ないね」




