41話 複雑な乙女心
「「はぁ……」」
歓迎会は終わり、宿へ。
部屋に戻ったところで、ユナとアズは同時にため息をこぼす。
仲間が増えた。
それが、セイルを追放した勇者パーティーの一員というのは複雑な気持ちだけど……
ただ、実際に接してみると、彼女はとても良い人に思えた。
気さくで優しい。
距離がいきなり近いものの、それも親愛の証と思えばなんてことはない。
ただ……
「……チェルシーさん、すごかったね」
「……ええ、すごかったわね」
キングとクイーンを一撃で倒してしまう魔法を使うことができる、実力者。
それだけではなくて、セイルとの連携は完璧だった。
元パーティーメンバー。
あれくらいは当然なのだろう。
それと、歓迎会の時。
二人はとても仲が良さそうに見えた。
長年連れ添った夫婦のよう。
だからこそ……羨ましい。
そして、嫉妬してしまう。
「私達、もっとがんばらないと……」
「でも、追いつけるかしら……?」
「「……」」
チェルシーに並び、追い越せる未来が想像できない。
ユナとアズは暗い表情になり、
「こらこら。どうしたの、そんな暗い顔をして?」
「「ひゃあ!?」」
突然、肩を抱かれて飛び上がる。
いつの間にかチェルシーがいた。
やや頬が赤いのは、酔っているせいだろう。
「ろ、チェルシーさん? いつの間に……」
「まあまあ、細かいことは気にしたらダメだよー。それで、どうしたの? そんなに暗い顔をして」
「それは……」
「……あたしのこと、気にしてた?」
「っ!? そ、それは……」
「ごめんね。パーティーに参加して。ただ、セイルの力になりたかったというか放っておけないというか……ほら。ちょっと危なっかしいところがあるから。いざって時は、あたしは、この身を盾にしてもセイルを守るわ」
「「……」」
ユナとアズは、ぽかーんとした。
そして、チェルシーの覚悟を見誤っていたことを知る。
彼女は、なにがなんでもセイルを守るつもりなのだ。
そのために、己の命すらも天秤に乗せている。
「あたしのこと……二人は反対かな?」
「私は、反対なんてしていませんよ」
「あたしも。チェルシーがいたら、すごく頼りになるから……それに、セイルも……もっと動きやすく、がんばれるはずだし。あたし達じゃあ、あそこまでうまくいかないわ」
「ユナちゃん、アズちゃん……」
「ごめんなさい。ちょっと嫉妬していただけなんです……」
「あたし達じゃあ、ああうまくはいかないから……」
「むしろ、チェルシーさんと二人だけの方が……」
「そうね、あたし達じゃあ……」
「大丈夫、焦らないで」
「……ぁ……」
チェルシーは、ユナとアズを一緒に抱きしめた。
温かくて、優しくて。
母を思わせるような包容力がある。
「セイルとの連携がとれているのは、元々、同じパーティーにいたからだよ。経験があるから、まあ、先をいけるよね」
「それは……」
「でも、言い換えれば、時間があれば二人もセイルともっともっと上手に連携がとれるようになる。あたしなんかより、よっぽど相性が良さそうだからね」
「そう……なんですか?」
「うん、あたしが保証する。なんだったら、そのために色々と教えてあげる。そのことを言いたくて、部屋に来たんだよねー」
チェルシーは二人から離れると、窓の前に移動した。
そして、夜空を見上げる。
「あたしは……理由がなんであれ、一度、セイルを追放しちゃったからね。今度は、あたしが追放されるかも。ま、それはそれで仕方ないから、笑って受け入れるけどね」
「……チェルシーさん……」
「でも、そうなる前に、できる限りのことをはしておきたいの。クライブ達は捕まったみたいだけど、ただ、なんか嫌な予感がして……だから、こうして加入させてもらったから、命を賭けてでもセイルを守ってみせる。それがあたしの責任。だから二人は……」
「バカなんですか!」
「バカなの!」
「えぇ!?」
いきなり怒られてしまい、チェルシーは驚いた。
なぜ、自分は怒られているのだろう?
訳がわからなくて混乱するしかない。
そんなチェルシーに、ユナとアズは説教する。
「セイルさんにも、色々と思うところはあると思いますけど、でも、一度、受け入れたチェルシーさんを切り捨てるようなことは考えません!」
「そうよ! セイルは、どうしようもないお人好しなんだから。パーティーメンバーになったなら、昔のことは許していると思うわ。あるいは、チェルシーだから気にしないとか」
「それなのに、そんな自虐的なことばかり言って……そういうの、ダメだと思います」
「チェルシーは、その……もう、あたし達の仲間なんだから。つまらないことばかり言ってないで……あと、一人で抱え込もうとしないで、あたし達やセイルを頼りなさいよ。そうやって……みんなで乗り越えていきましょう」
「ユナちゃん……アズちゃん……」
チェルシーは、泣きそうな顔になって。
でも、涙は我慢して。
がばっと、二人を再び抱きしめた。
「ありがとー! あたし、めっちゃ嬉しい!」
「あわわわっ、なんだかふくよかな感触が!?」
「くうっ、これが格差!?」
「……本当に、ありがとう」
「……チェルシーさん……」
強く抱きしめられているため、顔はよく見えない。
ただ、今度こそチェルシーは泣いているような気がした。
「うん、そうだね。二人の言う通りだね……パーティーに参加させてもらったんだから、ちゃんとがんばるよ。ユナちゃんとアズちゃんとソルちゃんと……そして、セイルのために。あたし、一生懸命がんばるよ」
「はい、一緒にがんばりましょう」
「まずは、あたし達に連携を教えてちょうだいよ?」
「ふふ、任せておいて!」
チェルシーは、とても晴れやかな笑顔を見せるのだった。




