37話 堕ちた先に……
「……」
憲兵所の地下牢。
光がほとんどない薄暗い牢に、クライブの姿があった。
両手足は拘束されて、まともに動きが取れない。
一級品の装備は全て没収されて、今は、ボロ布をまとっているだけ。
セイルにやられた傷は、一応、治療されたものの……
完全な回復とはいかず、今も痛みが残る。
ズキズキと。
ズキズキと。
セイルに殴られた顔が痛む。
「……なぜ、俺が……」
任務を立て続けに失敗して。
勇者の称号を剥奪されて。
挙げ句、犯罪者として投獄されてしまう。
ありえない。
こんな現実は、なにかの間違いだ。
悪い夢でも見ているのではないか?
しかし、目の前の光景が変わることはなくて……
クライブは身動きできず、囚われたまま。
そんなクライブには、多数の容疑がかけられていた。
任務を請けるだけではなくて、賄賂も受け取り。
他の冒険者に対する恐喝のような行い。
細かい犯罪は数え切れないほどで……
極めつけに、仲間に対する暴行。
勇者の称号を剥奪されるだけではなくて、ただの犯罪者に堕ちて。
牢で拘束されて、裁判を待つ身。
セイルが暴れた一件がきっかけとなり、冒険者ギルドが本格的に動いて……
クライブ達の罪が明らかになり……
このまま裁判を迎えれば、まず労働奴隷堕ちは間違いないと予想されていた。
それは、ティトとルルカも同じだ。
「こんなことは……ぐっ……セイル。そう、セイルのせいだ……全てヤツの……!!!」
呪詛をこぼすように呟いて、クライブは、見当ハズレの恨みを募らせていく。
任務がうまくいかなくなったのはセイルのせいだ。
勇者の称号を剥奪されたのはセイルのせいだ。
罪人として囚われたのはセイルのせいだ。
セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い、セイルが悪い……
「……セイルぅっ……! 俺は、このままでは終わらない、終わらせないぞっ!!!」
――――――――――
「ありがとう、セイル」
あれから一週間が経ち……
チェルシーは、無事に回復した。
後遺症もなく、問題なく元通りになることができた。
「あたしを助けてくれたこと。それと、その後に怒ってくれたことも……全部、ありがとう」
「別に、チェルシーのためにしたわけじゃねえよ。俺が勝手にしただけだ。勘違いするな」
「照れ隠しね」
「照れ隠しですね」
「お前らな……」
アズとユナがニヤニヤするのが頭に来るな、おい。
そんな俺達を見て、チェルシーは穏やかに笑う。
「……よかった」
「ん? なんのことだ?」
「セイル、新しいところでちゃんとうまくやれているみたいで」
「んなこと心配してたのか?」
「するよ。だって、セイルは大事な仲間だったし……それに、セイルの能力についてはまったく問題ないと思っていたけど、口が悪いから、うまくやっていけるのかな……って」
「「あーーー」」
アズとユナが、わかるわかる、という感じで頷いた。
だから、お前らな……
「このことは、絶対に忘れないから。今すぐは無理だけど、いつか、ちゃんと恩返しするからね」
「……チェルシーは、これからどうするつもりだ?」
「んー……あはは、どうしようか。私は特になにもしてなかったから、罪に問われることはなかったけど、でも、クライブ達を止められなかった、裏でしていたことに気づかなかった責任はあると思うから……なにか、人のためになることをしたいな。そうして、少しでも贖罪をしたい」
「チェルシーがそこまで気にすることねえだろ? ってか、それが正しいとしたら、俺も責任があるだろ」
「でも、あたしは……」
自分を責めて。
自分を傷つけて。
チェルシーは、まっすぐで、とても不器用なヤツだ。
……ったく。
「じゃ、今すぐ恩を返せ」
「え? い、いいけど、あたし、なにをすればいいの……?」
「体で返せ」
「「「……」」」
沈黙。
「「「えっ!!!?」」」
なぜか、アズとユナも驚いていた。
「か、かかか、体って……!? せ、セイルって、あ、あたしのこと、そ、そそそ、そういう目で見ていたの……!? えっ、いや、その……い、嫌じゃないけど、むしろ嬉しいけど、で、でも、ちょっと急というか心の準備が……」
「セイルさん!? どうして、チェルシーさんなんですか!? 私じゃダメなんですか!!! えぇ、ずるいですずるいですずるいです! 私だって、そういうことを期待して、毎日、きちんと綺麗に丁寧に体を洗っていたのに!!!」
「……二人が驚きすぎるから、あたしは、逆に冷静になってきたわ。ってか、セイルがそんな礼を期待するなんて……」
「あ? なにを驚いているんだ、お前ら」
「だ、だって、あたし……」
「チェルシーは優秀な魔法使いだからな。パーティーに参加してくれれば、さらに上を目指せる。アズとユナも、いい刺激を受けるだろうな」
「「「……」」」
三人の目がどんよりと曇る。
あぁ、そういうこと……
そんなことをつぶやいているように見えるが、なぜだ?




