36話 バカ
「バカなの!?」
「バカなんですか!?」
「おんっ!」
「あー……わりい」
憲兵の拠点。
そこで拘束されていた俺は、面会人がやってきたと面会室に通されて。
そこで、アズとユナとソルがいて。
開口一番、睨まれつつ、そんなことを言われてしまう。
二人……いや。
三人の怒りはもっともなので、素直に頭を下げるしかない。
「いきなり、問答無用でケンカを売って、殴りまくるとか……よくやったわね! じゃなくて!? 気持ちはわからないでもないけど、無茶苦茶すぎるから!」
「そうですよ! きちんとした証拠が出せるのなら、ちゃんとした手順を踏んで、憲兵に対処してもらうのが一番じゃないですか!」
もっともな正論に反論することはできない。
ただ……
正論が全てを救うわけじゃない。
人間は、人間だ。
感情に振り回されてしまう生き物だ。
だから、時に正論ではなくて、感情に従うことが正しいこともある。
……ま、今回の場合、俺は暴走しただけで、正しくはないが。
「「うううぅーーー……」」
「悪かった、反省してる。だから泣くな、心配するな」
「「する!!!」」
「あー……ソル、助けてくれ」
「おんっ」
ちょっとは反省しろ。
そんな感じで、ソルはそっぽを向いてしまう。
本当、賢いヤツだ。
「あー……ところで、チェルシーは?」
どうにも分が悪いので、強引に話を逸らすことにした。
「大丈夫。順調に回復しているわ」
「今は、宿の人に見てもらっています。いい人そうだったから、問題ないかと」
「ならいい」
「それよりもセイルの話よ!」
「いいですか? 今回のセイルさんは……」
あー……説教は避けられねえか。
ま、仕方ない。
自分でやらかしたことなので、そのツケはしっかりと受け止めないとな。
――――――――――
「……つまり、あの時にセイルさんがするべきことは、冷静に状況を分析して、最適の一手を考えることなんですよ」
「それなのにセイルは、暴走した。しかも、あたし達に相談することなく」
「勘弁してくれよ……」
すでに一時間くらい説教が続いていた。
さすがに疲弊してしまう。
……って、ちょっと待て?
やけに面会時間が長くないか?
疑問に思った時、面会室の扉が開いて、見覚えのある女が現れた。
いつもよくしてもらっている、冒険者ギルドの受付嬢だ。
「あ、セイルさん。おまたせしました。アズちゃんとユナちゃんも一緒だったんですね、ちょうどよかった」
「おまたせ、ってどういう意味だ?」
「釈放、っていうことですよ♪」
――――――――――
ありがたいことに、冒険者ギルドは俺の味方をすると決めたらしい。
さすがに、俺が意味もなく暴れ回っていたのなら、それは難しいが……
クライブ達がやらかしたことを知り、このまま放っておくことはできない、と。
冒険者達が協力して、クライブ達のチェルシーに対する暴行を立証。
さらに、連中は他にも色々とやらかしていたらしく、次々と余罪が判明。
俺の行動は、悪事を働くクライブ達を捕まえるため、という言い訳が作られた。
やや派手すぎて、周囲への配慮が欠けていたものの、相手が相手なのでそれは仕方ない、という流れになったらしい。
そして、冒険者ギルドが俺の身柄を預かる形で、釈放。
無事、外に出ることができた。
「あー……太陽の光が懐かしいな」
「昨日、ちゃんと浴びていたじゃない」
「一晩、牢に入っただけでしたね」
「貴重な経験ができたな」
「楽しそうにしないでよ……」
「あとで、協力してくれた人達にお礼をしないとですよ?」
「わーってるよ。冒険者ギルドも……ギルドマスターも動いてくれたみたいだからな」
「それだけ、ギルドにとってセイルは大事なのね」
「セイルさんですからね」
「俺なんかにこだわって、よくわからねえな……」
ただ、まあ……
ありがたくはある。
今回の件。
助けてもらったことは忘れない。
この恩は必ず返さねえとな。
「とはいえ、まずはチェルシーだ。ギルドは後にして、チェルシーの様子を確認したい」
「……やけにあの人のことを気にするけど、セイルって、ああいう人が好みなの?」
「も、もしかして、恋人とか……?」
「あ? んなわけねえだろ。元パーティーメンバーで、その時、かなり世話になったんだよ。恩には恩を、拳には拳を。だから俺は、気にかけているだけだ」
「初めて聞く格言ね……」
「良い言葉のように聞こえるけど、でも、とても物騒です……」
「なんでもいいだろ。とにかく、行くぞ」
「「はーい」」
「おんっ!」
ソルが元気よく鳴いて、俺達は、宿に戻った。




