35話 断罪の時
「自業自得だ」
「あん?」
こいつ、なにを言ってやがる?
……もしかして、俺が知らないだけで、チェルシーがなにかとんでもないやらかしをしたっていうのか?
あの真面目で優しいチェルシーに限って、そんなことはないと思うが……
「チェルシーが何をしたってんだ?」
「……貴様をパーティーに戻すように言ってきた」
「は?」
「セイルなんて、この俺のパーティーには不要だ! 勇者である俺こそが尊重されるべきで、ただの治癒師で、役立たずで、俺以下のセイルなんて不要なんだよ! それなのに、チェルシーは鬱陶しいくらいにセイルを戻せセイルを戻せと連呼して……うるさいんだよ!!!」
「……お前、そんな理由で?」
「他にも、あいつは鬱陶しいことばかりしていた! ここ最近は、特にうるさくて、うるさくて、うるさくて……そして、やることなすこと見当違いで、ミスばかりだ! なら、この俺に制裁されても仕方ないだろう? むしろ、罰を与えてもらったことを喜ぶべきだ! そう、この俺のおかげで、罰を受けて、罪を償うことができたのだからなぁ!!!」
「あー……そうか。わかった」
幼馴染のクライブは、完全に消えた。
目の前にいるのは……ただのクズだ。
「なら、今度は俺がクライブに罰を与えてやるよ」
「なにをバカな。いったい、俺がなにをしたという?」
「てめえの罪は……俺を怒らせたことだ」
チェルシーは、俺のことをまっすぐに見てくれていた。
クライブ達が偽りの仮面で接する中、唯一、本当の仲間として扱ってくれていた。
それは、俺にとって、どれだけの救いになっていたか。
彼女がいなければ、もっと早く終わっていた。
追放される前に、自分からパーティーを抜けていただろう。
恩人のようなものだ。
そんなチェルシーを、あそこまで……
許せるわけがない。
「とりあえず、もう一発、殴られておけ」
「ふざ……ふざけるなぁっ!!!」
クライブは、よろめきつつも後ろに跳んで回避。
「貴様こそ、いつもいつもいつも俺の邪魔をして……! 目障りなんだよっ、ここで死ね!!! バーストフレア!!!」
上位の火属性魔法。
直撃したら、骨も残らないと言われている。
……が。
そんなもの脅威でもなんでもない。
「うぜえ」
「なっ!?」
拳を振り抜いた。
業火は散らされて、花火のように火の粉を蒔く。
「おま……ど、どうして、魔法を拳なんかで……」
「てめえの魔法が弱すぎるんだろ。はっ、よくそれで勇者を名乗れたな? この程度の魔法でイキがるとか、恥ずかしくねえのか? ガキでもやらねえぞ」
「貴様ぁっ!!!」
激怒したクライブは、今度は剣で斬りかかってきた。
「こいよ」
「コロスッ!!!」
連続で剣が振られる。
縦、横、斜め、前から後ろ、跳ね上がって逆に跳んで……
多種多様な連続攻撃が繰り出されるものの、しかし、それが俺に当たることはない。
かすることもない。
「くそっ、バカな!? どうして、どうして俺の攻撃が当たらない!?」
「バカはお前だ。俺が、お前と何年一緒にいたと思っている? お前の攻撃も癖も思考も、全部、知っているんだよ」
「そんな、そんなことが……この俺が、勇者である俺が、セイルなんかに負けるわけが……!!!」
「勝つとか負けるとか、どうでもいい。ただ……殴らせろ」
「がっ……!!!?」
クライブの顔面を殴りつけて。
ヤツの体が面白いように飛んで、ゴミ捨て場に突っ込んで。
「……ちっ、しぶといヤツだな」
「あ……が、ぅ……」
ゴミ捨て場に突っ込んだクライブは、意識を失い、ぴくぴくと痙攣する。
一応、生きているみたいだが、もう立ち上がることはできないだろう。
「……ま、さすがにトドメを刺すわけにはいかねえから、ここまでにしておくか。それよりも……」
周囲を見回した。
たくさんの人。
憲兵の姿も見えた。
クライブを殴ることばかり考えていて、まったく周りが見えていなかったが……
まあ、あれだけ騒げば人が集まってきて当然か。
「おいっ、そこ! なにをしている!?」
「両手を上げろ、抵抗するな!」
「はいはい、わかってるよ。これ以上、暴れやしねえよ」
おとなしく両手を上げて、地面に膝をついた。
憲兵は手錠を取り出して、警戒しつつ近づいてきて、俺を拘束する。
もちろん、逆らうつもりはない。
状況を見れば、俺が暴れ回っていた。
非は完全にこちらにある。
やることはやったから、この後は、素直に従い、流れに身を任せるつもりだ。
「……あいつら、妙な心配をしねえといいが」
ユナとアズ。
ソル。
それと、チェルシーのことが気になるが……
「ま、やっちまったもんは仕方ねえか」
そう開き直ることにして、おとなしく憲兵の言う通りにした。
その際、ゴミ捨て場から救出されるクライブを見る。
さんざん殴りつけてやったから、ボロボロだ。
一級の治癒師でなければ、後遺症が残るかもしれない。
「はっ、ざまあみろ」




