34話 ふざけるなよ?
クライブは単純な男だ。
思考も単純で、そして、プライドが高い。
勇者なのだから、それ相応の宿に泊まるべき。
そう考えるだろうという予想は的中して、わりと簡単にクライブ達が泊まる宿を突き止めることができた。
そして……
「邪魔するぞ」
「なっ……!?」
扉を蹴破ると、中にいたクライブ達が驚きの表情を浮かべた。
いきなり乱入してくれば、まあ、当然の反応だ。
「な、なに……? セイルか?」
「おいおい、なんだい、いきなり? 扉を蹴破るなんて、品がないね」
「あー……わかったわ。この前の話、やっぱり受けたいんでしょ? 私達のパーティーに復帰したいんでしょう?」
「なるほど、そういうことか。やはり、痩せ我慢をしていたというわけだな?」
なにを勘違いしたのか、三人は、ニヤニヤと笑う。
あー……苛つくな。
本気で苛つくわ。
チェルシーの怪我は、重度の打撲。
全身に打撲を負い、瀕死の状態に陥っていた。
怪我の具合から、一人ではなくて、複数人による犯行ということは簡単にわかった。
つまり……
このクズ共は、よってたかって仲間のはずのチェルシーに暴行を加えたわけだ。
「俺達のパーティーに復帰したいか、セイル? 俺は寛大な男だ。どうしても、と土下座をして頼むのなら、まあ、少しくらいは考えてやらないでもぐはぁ!!!?!?!?!?」
全力でクライブを殴り飛ばした。
こちらの手も傷つくが、関係ない。
鼻の骨を折り。
それと、前歯も折る感触。
吹き飛ばされたクライブは、窓を割り、そのまま外に落ちていく。
「「……え?」」
突然の展開についていけない様子で、ティトとルルカが間抜け顔を晒した。
「……お前!? いったい、いきなりなにをはぐぅ!?!?!?」
ティトも殴りつけた。
上から下に殴りつけたため、ティトは、頭から床にめり込む。
たぶん、一人では抜け出せないだろうな。
まあ、知ったことじゃない。
「あ、あんた、いきなりやってきて……!? まさか、女の私まで手を……」
「うるせえ、んなこと知るかボケ」
「ひぐぁ!!!?」
ルルカを殴りつけて、壁まで吹き飛ばした。
途中、テーブルを巻き込んで、嫌な音が響いたが、まあ、知ったことではない。
床にめり込んだティト。
壁にめりこんだルルカ。
二人は、ひとまず放置して、俺は外に出た。
「ごほっ、がはっ……!?」
ティトやルルカと違い、クライブは意識が残っていた。
鼻血などで顔を汚しつつ、こちらを睨みつけてくる。
「き、貴様っ……いきなり、このような蛮行に及んで、この俺に対してがはぁ!?」
「黙れよ」
今度は、顔を殴り上げた。
顎を砕く感触は……ない。
ちっ、残念だ。
「おまっ……おまええええええぇぇぇっ!!!」
完全にブチキレたクライブは、抜剣して、血走るような目で睨みつけてきた。
ティトとルルカと違い、なかなかに頑丈だ。
でも、それでいい。
すぐに倒れられたら、殴る機会が減るからな。
「このような、ふざけたな真似をいきなり……貴様は死ねっ!!!」
「ふざけた真似? ああ、そうか。そうだな……」
クライブは駆けつつ、剣をまっすぐに突き出してきた。
速度、威力は十分。
普通に考えるのなら、俺は、クライブの刃で串刺しにされてしまうのだろうが……
「そいつは俺のセリフだ」
「なぁっ!?」
クライブの剣を殴り、砕いた。
国から賜った、至宝の一品だったか?
いつも、この剣は素晴らしいぞ、と自慢していたが……
それを、粉々に砕いてやる。
それから、もう一度、クライブを殴りつけた。
今度は腹部。
クライブはえづいて、その場に膝をつく。
「ば、かなっ……!? 俺の剣だけ、ではなくて……なぜ、この俺が、こうも簡単に……!!!?」
「なぁ……理由はわからねえけどさ、クライブは、俺のことが鬱陶しかったんだよな? うざかったんだよな? 能力うんぬんは適当にこじつけて、うざいから俺を追放したんだよな?」
「ぐっ……!」
「ま、それはいいさ。俺ももう、クライブとやっていくのは限界だと思っていたからな。ちょうどいい機会だった。追放されたことに関しちゃ、もうなんとも思ってねえよ……ただな」
「がはっ!?」
再び殴りつけた。
思い切り顔を殴りつけて、クライブを吹き飛ばす。
全力で顔を殴れば、こちらの拳も痛めてしまう。
治癒師にとって大事な手を痛めるなんて、あってはならないことなのだが……
どうしても手加減ができない。
次から次に怒りが湧き上がり、自制することができない。
「なんで、チェルシーに手を出した?」
「な……なんのことだ、俺は、なにも……」
「てめえの履いている靴。それと、ティトとルルカの靴。それらは特注品で、他にはない。そんな靴で蹴れば、いい感じにしっかりと跡が残るんだよ。てめえらがやった以外、考えられねえんだよ」
「ぐっ……」
言い逃れできないように逃げ道を潰すと、クライブは苦い顔をした。
「繰り返しになるが、俺のことはどうでもいいんだよ。うざかったから、素直に追放された。そのことも、どうでもいい。ただな……なんで、仲間であるはずのチェルシーに手を出した? あんなになるほど痛めつけた?」
「……自業自得だ」
クライブは、暗い笑みと共に言う。




