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28話 患者は人間とは限らない

 声のした方を見ると、テイマーらしき男性と、その従魔らしき鳥型の魔物が倒れていた。


「おい、どうした?」

「わ、わからない……こいつが突然、苦しみだして……そのまま」

「俺は治癒師だ。見てもいいか?」

「あ、ああ! もちろんだ、頼む!」

「ユナ、手伝ってもらってもいいか?」

「は、はい! もちろんです」

「どうしたの、って……これ」

「アズも手伝ってくれ」

「よくわからないけど、了解よ! ソルは、そこで待っててね」

「おんっ!」


 こういう時のために、あらかじめ常備している清潔なタオルをテーブルの上に広げた。

 鳥型の魔物をそっと抱き上げて、その上に乗せる。


「ユナとアズは、こいつの翼を広げてくれ。ただ、傷つかないようにそっとだ」

「わかりました!」

「そっと、そっと……」


 二人に翼を広げてもらうことで、全身がよく見えるようになった。


 まずは背面。

 一切の見逃しがないように各部を注視しつつ、ゆっくりと触診する。


 怪我はしていない。

 かといって、病気のような症状も感じられない。


「今度は腹部を見たい。ゆっくりと裏返すぞ」

「「了解!!」」


 ユナとアズは、すっかり俺の助手になっていた。

 三人で協力して、できるだけ負担がかからないように、そっと裏返した。


「おんっ」


 がんばれ、という感じでソルが吠えた。


 頼もしいな。

 応援のおかげで、やる気が湧いてきた。


「……怪我や病気ではないな」


 同じように目視と手で確認するものの、異常は見当たらない。


「あ、あの……すまない。キミは治癒師と言うが、魔物の生態にも詳しいのかい?」


 テイマーが心配そうに尋ねてきた。

 下手なことをされてはたまらないと思ったのだろう。


「大丈夫だ。魔物についても詳しい。これまで、そこそこの数の手術を行ってきた」

「そこそこ……というのは?」

「正確には覚えていないが、千くらいだろうか」

「「それは、そこそこじゃない」」


 ユナとアズにツッコミを入れられてしまう。

 普通……じゃないようだな。


 最近、自分の異常性を理解できてきたような気がする。

 師匠が規格外で、あれを基準としていたせいだな。


「そ、そうなのかい……? しかし、魔物に詳しい治癒師なんて、初めて聞いたが……」

「多くの冒険者は、魔物と戦い傷を負う。どのような魔物と戦い、傷を負ったのか? それは、治療をする上でとても大事な情報だ。だから、魔物の生態や情報もきっちりと調べている。その上で、治療する機会もあったんだよ」

「な、なるほど……キミは、すさまじく勉強熱心なんだね」

「セイルさんですからね!」

「ユナが得意そうにしないの、こら」


 蛇の毒を調べるために蛇の研究をする。

 それと同じで、俺は、魔物を調べているだけだ。


「ん? これは……」


 ふと、鳥型の魔物がピクピクと痙攣した。

 なにかしらの病気や怪我で発作が起きている、という感じではない。

 苦しそうにうめいているという感じで……


「ちと我慢してくれよ」


 腹部を中心に、さきほどよりも細かく、深い触診を行う。

 すると、わずかにではあるが張りを感じられた。


「そうか……わかったぞ」

「原因が判明したのかい!?」

「ああ。こいつは今、寄生型の魔物に侵されている」


 寄生虫というものがいるように……

 他者の体内に潜む、寄生型の魔物が存在する。


 色々な悪影響を及ぼすが、大抵の場合、死に至る。

 下手な病よりも厄介な症状だ。


「寄生型の魔物だって!? そ、そんな……九割は助からないって言われている、最悪の事態じゃないか……」


 テイマーの男は、絶望した様子でがくりと膝をついた。


 よほど、この子を可愛がっているのだろう。

 多くの信頼を寄せているのだろう。


「魔物が魔物を襲うんですか?」

「テイムされていない魔物は、自分と群れ以外は敵とみなすことが多いからな。魔物同士で戦うことはよくある」

「ど、どうすればいいの……?」


 テイマーの相棒である鳥型の魔物が苦しんでいる。

 なら、治癒師の出番だ。

 相手が人間じゃなくても、助けを求められているのなら助けなければいけない。


「手術の許可をくれないか?」

「しかし……寄生型の魔物の除去手術は、とても難しく……それだけじゃなくて、大きな負担をかけるんだろう? それでいて、成功率は一割以下……こうなってしまったら、もう、安楽死をさせた方がいいと言われていることも……」

「大丈夫だ」


 テイマーの男の不安を取り除くように、強く言い切る。


「必ず助けてみせる。強がりじゃねえ。助けられるという自信がある。ただ、マスターであるあんたの許可なく、勝手にするわけにはいかねえからな」

「そ、それは……本当なのか?」

「治癒師の誇りに賭けて」

「……」


 決断できない様子で、迷いを見せていた。

 そんな彼の背中を押したのは……ユナとアズだ。


「セイルさんなら、きっと、この子を助けてくれますよ! 信じてください!」

「あたし達も、規格外のセイルに助けられたわ。で……セイルは誰かを助ける時なら、何度も何度も奇跡を起こしちゃう。だから、大丈夫」

「キミ達は……」


 迷うような間。

 ややあって、テイマーの男は頷いた。


「この子は、生まれた時から一緒だったんだ。家族のように思っていて……だから、頼む。どうか、助けてほしい」

「任された」


 男の想いを受け取る。

 その想いが俺に力を与えてくれるみたいで、気力がみなぎってきた。


「さあ、オペを始めよう」

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