27話 従魔登録
テイマーなど、動物や魔物と契約して使役する職業が存在する。
戦闘面での活躍は難しいが、幅広いサポートを可能としているため、わりと人気職だ。
そんな彼らに必須とされているのが、従魔登録だ。
ギルドで試験を受けて、従魔登録が認められたら、魔物を街中で連れて歩くことが可能になる。
逆に言うと、試験に落ちた場合は、その魔物を連れ歩くことは認められない。
「……ちょっと緊張してきたな」
ギルドを訪れて、従魔登録試験を行いたい旨を伝えた。
準備が終わるまで待機しているが、なんだか、ものすごく落ち着かない。
「わふぅ……」
一方のソルは、俺の頭の上で丸くなり、うつらうつらとしていた。
これから試験だというのに、まったく緊張した様子がない。
こいつは将来、大物になるかもしれないな。
「ふふ。セイルさんって、意外と親ばかなんですね」
「めっちゃ優しい目をしていたわよ?」
「……目が悪いんじゃねえか」
ユナとアズもたくましくなってきたな。
出会った時の弱々しさは消えて、すっかり一人前の冒険者だ。
「おまたせしました」
ややあって、受付嬢がやってきた。
「今日は、従魔登録でしたね? そちらの子が……」
「ああ、ソルだ」
「ソルちゃん、ですね。種族は?」
「……ウルフの変異種っぽいな」
フェンリルと答えたら、さすがに騒ぎになりそうなので、そこはごまかしておいた。
実際、フェンリルの幼体はウルフと区別がつかない。
毛の色が違うものの、変異種ということにしておけば、怪しむ人はいないだろう。
ちなみに、ソルがフェンリルの幼体であることは、ユナとアズ以外知らない。
冒険者ギルドにも隠している。
本来なら報告すべきなのだろうが……
俺はまだ、ここの冒険者ギルドがどういうものなのか、判断しかねている。
もしかしたら、内部が腐っているかもしれない。
そういう可能性を考慮して、ソルのことは秘密にしておくことにした。
「では、いくつか検査をさせていただきますね」
「ぐるるる……!」
受付嬢が触れようとしたら、ソルが唸り声をあげた。
人に懐かないというのは、本当の話だったんだな。
愛嬌をたくさん振りまいていたから、実は、ちょっと信じていなかった。
「ソル、落ち着け」
「ぐる……」
「その人は敵じゃねえ。心を許せとは言わないが、おとなしくしてろ。害を加えられたら、その時、思い切り噛んでやればいい。だから、今は我慢しろ……いいな?」
「……わふっ」
ソルは唸るのを止めて、その場にちょこんと、礼儀正しく座る。
本当、賢い子だ。
「すごいですね……まるで、人の言葉がわかっているかのよう。今の反応だけで、いくらかの試験は合格ですよ」
「そうなのか?」
「はい。中には、突然、命令を無視して暴れ出す従魔候補もいるくらいですからね。ここまできっちりと躾けられているのなら、その辺りの試験はパスでいいと思います」
「なるほど」
「それにしても……うーん。この子、フェンリルに似ていますね」
「……そんなことはねえだろ」
ドキッとして、少し反応が遅れてしまった。
「フェンリルは、決して人間に従うことはない……しかし、唯一の例外が、勇者。選ばれた存在なら、フェンリルも従えてみせる、とか」
「へぇ……」
「セイルさんは、勇者だったりするかもですね」
「つまらねえ冗談だな」
「まあ、勇者はともかく、フェンリルがこんなところにいるわけないですからね。この前の騒動では、セイルさんのおかげで帰ってくれたみたいですし……よし、基本情報の登録は完了です。この後、試験を行うので、もう少し待ってください」
受付嬢が去り……
俺は、ほっと吐息をこぼす。
「そのうち、フェンリルだってバレるか、こりゃ?」
「うーん……可能性は高いと思います。成長したら、一目でわかるくらい、大きくなるので」
「でも、大丈夫でしょ。フェンリルは不老って言われるほど長命だけど、その分、成長は遅いわ。たぶん、10年くらいはこのままよ。成獣になるには、30年くらいだったかしら?」
「そうなのか?」
「そそ。だから、その間に、なにか考えればいいんじゃない? 時間はたっぷりあるもの」
「ちなみに、私達エルフも成長はゆっくりなんですよ。大人になった姿をセイルさんに見てもらうには、もっとかかるかもです。でもでも、今でも十分、セイルさんを満足させることができると思います!」
「ユナって、なんでこう、そっち方向は思い切りがいいのかしら……?」
ユナとアズは、この先、十年経っても一緒にいることを前提として話をしている。
十年……一緒にいることができのだろうか?
クライブの時みたいに、途中でパーティーが分解してしまわないだろうか?
不安はある。
先はわからない。
でも……
「できるだけ、がんばるか」
やれることはやる。
そして、欲しいものを掴み、離さない。
――――――――――
ソルの従魔登録の試験は問題なく終わった。
無事、合格点を得ることができて、ソルは正式に俺の従魔として認められた。
これで散歩に連れていける。
ユナとアズも楽しみにしているらしく、ソルとじゃれあっている。
今は、従魔の証明書の発行待ちだ。
少し時間がかかるらしく、ギルドのラウンジで待っている。
「首輪を買わないといけないな。あと、ソルが泊まっても問題のない宿に移らないと。あとは……犬と同じ道具を揃えておいた方がいいか? いや、犬と同列にしたらソルが怒るか?」
「ふふ。セイルさん、けっこう乗り気なんですね」
気がつけばユナが近くで笑っていた。
ちなみにアズは、まだソルと遊んでいる。
「……ソルの親に文句を言われても困るから、色々やってるだけだ。仕方なくだよ」
「素直じゃないわねえ」
「いいんじゃないですか。家族が増えることは、嬉しいことですから」
「家族……か」
ソルは家族。
不思議と、とてもしっくり来る言葉だった。
「それなら、ユナとアズも家族かもな」
「ふぇ? えっと、その……ありがとうございます」
「ちょ、ちょっと照れるわね……」
穏やかな時間が流れる。
できれば、ずっと浸っていたい。
ただ、その願いは叶わず……
「おいっ、どうしたんだ!?」
突如、悲鳴が響いた。




