22話 密猟者
「よぅ」
リーダーらしき大男が前に出て、そう気軽に挨拶をしてきた。
「今日はいい天気だな。そう思わないか?」
「ああ、そうだな。悪くねえ天気だ」
「なら、せっかくの気分が台無しになるようなことはしたくないな。だろ? だから……そいつを渡してくれないか?」
大男は、ユナが抱える子犬を指さした。
ユナは、子犬を強く抱きしめて。
そしてアズは、そんな二人を背中にかばう。
「あの子犬の怪我は、お前達が?」
「なに、ちょっとした躾だ。やりすぎたことは認める。ちゃんと治療するさ。貴重なヤツだからな、殺すなんてことはしねえよ」
「そうか、思い出した」
「なに?」
「あの子犬……フェンリルの幼体だな?」
フェンリルは、最上位にランクされる、天災級の魔物だ。
一見すると狼に似た外見ではあるが、その力は桁違い。
人語を理解して、強力な魔法も扱うことができるという。
ただ、幼体は名の通り、生まれたばかりの赤ちゃんだ。
大した力は持たない。
どうして、こんなところにフェンリルの幼体が?
考えるられる可能性は一つ。
「お前達、密猟者だな?」
「ちっ」
大男の舌打ちを合図にして、残りのメンバーが一斉に武器を抜いた。
「フェンリルの幼体は、確かに金になるだろうが……それにしても、正気か? 下手をしなくてもフェンリルの怒りを買い、この街が滅びるぞ」
「はっ。この街がどうなろうと、知ったことじゃねえな。金が手に入れば、それでいいんだよ」
「最低の発言、ありがとう」
これで、心おきなく叩き潰すことができる。
「ユナ、アズ。その子を頼んだ」
「はい、わかりました!」
「任せてちょうだい!」
フェンリルの幼体は大丈夫だろう。
怪我はしているものの、重傷ではないので、悪いが後回しにさせてもらう。
今は、治療の邪魔をする、密猟者達を排除するだけだ。
「いくぞ」
「はっ、バカが! この数に勝てると思っているのか? しかも、俺達は、一人一人がCランク冒険者に匹敵する力を持っているんだよ! くたばれやぁっ!!!」
――――――――――
「……よく吠える犬ほど臆病で弱い、っていう話は聞きますね」
「……これはまあ、見事なフラグ回収だったわね」
「う、ぐっ……ち、ちくしょう……」
数分後。
密猟者達は、全て地面に倒れていた。
治療の邪魔をする者は悪でしかない。
容赦なく、手加減なしに叩き潰してもよかったのだけど、フェンリルの幼体について聞いておきたいことがある。
それと……いざという時、役に立つかもしれないからな。
一応、手加減はして殺さないでおいた。
「バインド」
全員、魔法で拘束しておいた。
「セイルさん、拘束魔法まで使えるんですか!? え、えええぇ……なんでですか?」
「拘束魔法って便利すぎるから、悪用されないように、習得方法はかなり厳重に管理されている、って聞いていたんだけど……それを習得しているとか、どれだけおかしいのよ」
拘束魔法を習得しているだけで、なぜそこまで言われないと……?
「たまに、怪我の痛みや幻覚で暴れてしまう患者がいるからな。そういう時のために、習得しておいたんだ」
「どこで?」
「独学で」
「「……」」
二人は唖然とした。
「……お姉ちゃん。セイルさんと一緒にいると、治癒師の概念がどんどんおかしくなっていくよ」
「安心して。あたしはもう、とっくにおかしくなっているわ」
ちょくちょく、二人の反応が解せない。
本当になぜだ?
「まあ、その話はいいだろう? それよりも、その子の治療をするぞ。おい、ワンコロ。こっちにこい」
「くぅーん」
フェンリルは弱々しい声をこぼしつつも、俺のところにやってきた。
俺達が味方であると理解しているのだろう。
賢い子だ。
「ふむ」
「ど、どうですか……?」
「その子、大丈夫……?」
「ああ、問題ない。足の怪我は、トラバサミによるものだろう。捕まった時に受けた怪我だな。これなら、すぐに治る」
「よかったぁ……」
「ユナ、アズ。この子を押さえておいてくれないか?」
「え? まあ、いいけど……なんで?」
「ちょっと暴れるかもしれないからな」
「へ? それ、どういう……」
説明するよりも先に、俺は、子犬の怪我をした足に消毒薬をかけた。
「キャンッ!?」
「せ、セイルさん!? この子、痛そうにしていますけど!?」
「消毒をしてるんだよ。あのまま魔法で治しても、怪我を治すだけで、罠についているであろう雑菌などは取り除けない。単純に治しただけだと、後で病気になる可能性がある」
「だから消毒が必要、っていうわけなのね……わかったわ。しっかり押さえているから、やって!」
「頼もしい返事だ」
そのまま消毒を続けた。
子犬はキャンキャンと鳴いて、心苦しいのだけど……
これは必要なことだ。
心を鬼にして、しっかりと患部を消毒した。
「よし。あとは……ヒール」
回復魔法で傷を塞いだ。
「わふ?」
途端に子犬がおとなしくなる。
不思議そうな感じで、その場をくるくる回り……
「オンッ!」
俺の胸に飛び込んできた。
「お、おい……?」
「ハッハッハッ……! くぅーん」
「おい、こら。舐めるんじゃねえ」
「あはは。すっかり懐かれたみたいね」
「きっと、セイルさんが怪我を治してくれたことに感謝しているんですよ」
「ったく……俺は怪我を治しただけ。治癒師の義務を果たしただけで、てめえのことを考えたわけじゃねえんだぞ。てめえのためなんかじゃねえんだ、そこんところ理解しろ」
「わふ! わんわんっ、くぅーん」
「くっ、甘えてきやがって……まったく理解してねえ!」
「ふふ。セイルさんが優しい人って、ちゃんと理解しているんですよ」
「いいじゃない、こんなに可愛いんだから」
普通、消毒などをして痛い思いをさせたら、そのまま嫌われてしまうんだけど……
この子は、本当に賢い。
消毒も必要なことと理解して、そして、改めて感謝しているのだろう。
まったく……懐かれても面倒なんだがな。
「とりあえず、こいつと密猟者達をギルドに……」
その時。
カンカンカン! と、街全体に甲高い音が響き渡る。
「え? え? な、なんですか、これ?」
「なによ、うるわいさね」
「まずいな……」
「「え??」」
「これは、緊急避難を促す警報だ」
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