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21話 平和が一番

 冒険者だとしても、毎日、依頼を請けているわけではない。

 疲れた体と心を癒やすために、しっかりとした休息が必要だ。


 ……と、ユナとアズに説教された。


 俺は、冒険者としては駆け出しだ。

 もっともっと多くのことを学ばないといけない。


 そのため、不眠不休で、一週間ほど絶え間なく依頼を請けようとしたのだが……

 それをユナとアズに知られたら、ものすごい勢いで説教された。


 ワーカーホリックすぎる、とか。

 ブラックギルドも顔負け、とか。

 社畜根性が凄まじい、とか。


 そこまでか?


 まあ、二人がかりでずっと言われたら、さすがに折れざるをえない。

 折れた俺は、二人の言う通り休暇を取ることにした。


「わぁ……改めて見ると、広い街ですね!」

「ま、なかなかなんじゃない?」


 というわけで、今日は休息日。

 ユナとアズと一緒に街を回る。


「セイルさんは、この街に詳しいんですか?」

「いや、あまり」


 クライブとの旅の途中、立ち寄っただけで、その時は初めて来た場所だ。

 商店やギルドの場所など、最低限の情報しか持っていない。


「ま、今日はちょうどいいな。適当に見て回り、この街について覚えていこうぜ」

「はい!」

「勉強とか言わないでよ、萎えるじゃない……観光って言ってほしいわね!」

「ここ、観光地じゃねえだろ」


 さすがに、それくらいは見ただけでもわかる。


「気持ちの問題よ、気持ちの。それより、早く行きましょ!」

「そうですね! 行きましょう!」

「ったく、仕方ねえな。子守をしてやるか」

「そうよ、ちゃんとあたし達を見ていなさい!」

「いつか、私達以外見られなくなるように、夢中にしてみせますからね♪」

「あのな……まあいいか」


 なんだかんだ、とても楽しみにしているみたいだ。

 苦笑しつつ、俺は、ユナとアズについていった。




――――――――――




 気の向くまま、好きなところを見て回り。

 人気の店で昼食を食べて。

 公園などで羽を伸ばす。


「はふぅ……のんびり、最高ですねぇ……」

「ほんと……なんか、とろけちゃいそう……」


 芝生の上に寝るユナとアズは、とても幸せそうだ。

 そのまま寝てしまいそうだけど……まあ、たまにはいいか。


 俺も横になる。


「……」


 緑の香り。

 風がゆっくりと吹いて、青い空の中、白い雲が静かに流れていく。


「気持ちいいねぇ、お姉ちゃん……」

「ふんわかして、このまま飛んでいっちゃいそう……」


 二人が言うように、とても安らぐ。

 たまの休日も悪くないな。


 というか……

 もっと休日を多くしてもいいかもしれないな。

 ユナとアズが手伝ってくれているおかげで、依頼の達成率は、今のところ百パーセント。

 懐もだいぶ潤ってきた。


 クライブのパーティーにいた時の慣れで、冒険者は依頼を請けてなんぼと思っていたが……

 そんなことはない。

 適度に請けるだけにして、余った時間は、こうしてのんびり過ごすのも悪くない。

 そうやって、日々を穏やかに過ごしていけるというのは、とても幸せなことなのだろう。

 ユナとアズが一緒なら、なおさら楽しいと思う。


「……少し寝るか」


 俺は目を閉じて、心地いいまどろみに身を任せて……


「っ!」


 跳ね起きた。


「ど、どうしたんですか……?」

「なによ。お昼寝タイムじゃないの?」

「も、もしかして、ここで私を求めて、とか……? きゃっ、大胆です♪」

「嬉しそうね……っていうか、妹の頭がピンクエルフに、あたしはびっくりよ」

「……血の匂いだ」

「「えっ」」


 ユナとアズは驚いて、周囲をキョロキョロと見て、それからすんすんと鼻を鳴らす。


「えっと……なにも感じませんけど」

「気の所為じゃないの? っていうか、なんでわかるのよ?」

「治癒師が血の匂いを見逃すなんて、ありえねえよ。それは、怪我人を見逃してしまうようなことだ」

「また、とんでも治癒師理論が出てきたわね……犬みたい」

「あはは……私はもう、慣れてきたけどね」


 とんでも……?


「さすがに、街中で、っていうのが気になる。様子を見てくるから、ユナとアズはここに……」

「いえ、私達も一緒します」

「パーティーなら、サポートするのは当然でしょう?」

「……わかった、頼む」


 ユナとアズを連れて、血の匂いがする方に足を進める。


 建物と建物の奥。

 陽の差さない裏路地が現場のようだ。


「ユナとアズは、俺がいない時、裏路地には絶対に入るなよ」

「は、はい……!」

「なんか……別世界みたいね」


 アズが言う通り、ここは別世界だ。

 街の治安にもよるが、基本、暴力が全てを支配している。


 このようなところで血が流れるのは日常茶飯事。

 ただ……この血の匂いは気になる。


「キャン!」

「わわっ!?」


 突然、なにか小さなものが飛び出してきた。

 それは、ユナに飛び込む。


「ユナ!? 大丈夫!?」

「う、うん……大丈夫。それよりも、この子……」


 ユナが胸に抱えていたのは、子犬だった。


 いや……子犬なのか?

 見事な銀色の毛並み。

 やけに大きな尻尾。

 狼に似ているものの、しかし、細部は違う。


「大変っ、足を怪我しているじゃない!」

「セイルさん……あの!」

「わかっている。ただ……その前に、こいつらの相手をしねえとな」


 血の臭いをまとう複数の男が姿を見せた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

「続きが気になる」「長く続いてほしい」など思っていただけたら、

ブクマや評価で応援していただけると、すごく嬉しいです!

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